電気主任技術者になる方法の一つとして、実務経験を認定要件とする方法があります。
電気主任技術者資格は、電気設備や安全性に関する高度な専門知識を持つことが求められる資格です。
資格取得を考える電気工事に携わる多くの人々にとって、実務経験があると大きな強みになるでしょう。
では、実務経験とはどのような要件で認定され、資格取得にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、電気主任技術者の実務経験に焦点を当て、実務経験を積むことで得られるキャリアや給与のメリットについて解説しています。
この記事は以下の方におすすめです。
- 電験実務試験について詳しく知りたい方
- 電気主任技術者認定学校を卒業済みで、キャリアアップを目指している方
電気主任技術者の認定要件
実務試験電気主任技術者の資格を取得するためには、特定の条件を満たす必要があり、これらの条件は、学歴や実務経験に関する要件が決められています。
認定要件①学歴
電気主任技術者の実務経験として認定を得るには、特定の学歴条件を満たす必要があります。
認定の要件は以下の2つです。
①経済産業大臣の認定を受けた学科で、必要な単位を修了した者
②経済産業大臣の認定を受けた短期大学または高等専門学校で必要な単位を修了した者
①は大学や、工業高校などの高等学校、②は短大や高専が該当します。
地域によって認定された学科と必要な単位数が異なる場合がありますが、電気工学や関連する分野の学科を修了し、必要な単位を取得したことが求められます。
認定要件②実務経験年数
実務経験についても様々な要件が設けられています。
認定要件の学歴を達成していても、卒業した学校によって認定までに必要な実務経験年数が変わってきます。
以下の表は、必要な実務経験年数を表したものです。
学歴 | 大学 | 短大又は高専 | 高校 |
第一種電気主任技術者 | 5年以上 | 認定取得不可 | 認定取得不可 |
第二種電気主任技術者 | 3年以上 | 5年以上 | 認定取得不可 |
第三種電気主任技術者 | 1年以上 | 2年以上 | 3年以上 |
大学卒業者は、全ての級の資格取得が必要ですが、短大、高専、工業高校卒業者には、取得できるレベルの制限が設けられています。
履修が必要な内容
認定校の認定基準は学校によって要件が異なりますが、一般的に、以下のようなことを学びます。
一種電気主任技術者
科目 | 概要 |
電気工学基礎 | 電気回路、電磁気学、電力工学などの基本的な電気工学の理解 |
電気設備・機器の運用 | 電気設備や機器の運用・保守、トラブル解決能力の養成 |
安全規制・法令 | 電気安全規制や法令に関する知識理解 |
電力供給と配電システム | 電力供給、配電システムに関する理解 |
保安管理 | 電気工作物の保安管理、点検、報告能力養成 |
電気設備の設計 | 電気設備や器具の設計・配置に関する知識理解 |
環境への配慮 | 環境への配慮と持続可能性に関する知識理解 |
二種電気主任技術者
科目 | 概要 |
電気工学基礎 | 電気回路、電磁気学、電力工学などの基本的な電気工学の理解 |
電気設備・機器の運用 | 電気設備や機器の運用・保守、トラブル解決能力の養成 |
安全規制・法令 | 電気安全規制や法令に関する知識理解 |
電力供給と配電システム | 電力供給、配電システムに関する理解 |
保安管理 | 電気工作物の保安管理、点検、報告能力の養成 |
三種電気主任技術者
科目 | 概要 |
電気工学基礎 | 電気回路、電磁気学、電力工学などの基本的な電気工学の理解 |
電気設備・機器の運用 | 電気設備や機器の運用・保守、トラブル解決能力の養成 |
安全規制・法令 | 電気安全規制や法令に関する知識理解 |
電気主任技術者になるためには、各種別ごとに異なる科目の履修と合格が求められます。詳細な要件や科目内容は、各学校や認定機関の要項に従って確認するようにしてください。
実務経験として認められる仕事内容
認定校を卒業した後、次に待つステップは実務経験としての認定です。
ここでは、電気関連業務の中でどのような仕事が実務試験として認定されるのか説明していきます。
現在、実務経験を積んでる段階の人は今一度、対象となる業務内容をチェックしてみてください。
配線の工事
電気主任技術者は、大規模な電気工作物の電気配線の計画と管理を行います。
具体的には、工場やビルなどの建物内外における電気配線の設計を担当し、電気工事士が実際の配線工事を行います。
実際の工事現場で電気主任技術者は、どのように電気回路を配置し、どのような配線方法を使用するかを計画し、工事の品質と安全性を確保します。
また、配線工事が法令や規制に適合していることも確認し、建設工事全体の電気設備に関する指導や監督を行います。
電気設備や器具の設計
電気主任技術者の仕事の一環として、電気設備や器具の設計があります。
これは、工場やビルなどの建物において、電気工作物をどのように配置し、設計するかを計画する業務です。
建物の要求事項や特性に合わせて、電気設備を効率的に配置し、省エネルギーを促すための対策を講じます。
安全性にも配慮し、電気設備の安全性の確保にも気を配る必要があります。
電気主任技術者は、建物内の電気設備の安全性確保や、無駄な消費エネルギーの削減と設計・配置に関する重要な役割を果たしています。
性能検査と機器調整
性能検査と機器調整は、電気主任技術者が担当する業務の一つです。
主な仕事内容は、発電設備、変電設備、送配電設備、給電設備などの電気工作物の性能を定期的に検査し、設計通りの性能が維持されているか確認することです。
例えば、発電設備では、発電機の出力電圧や周波数が設計通りであるかどうかを確認し、必要に応じて調整します。
変電設備では、電圧の安定性や変圧器の性能を検査し、必要な調整を行います。
送配電設備や給電設備では、電力供給の安定性や電圧降下の問題を確認し、機器を調整して効率的な運用を維持します。
設備維持の保安管理
電気主任技術者は、発電設備、受電設備、変電設備などの電気工作物の保安管理も担当し、設備の定期的な点検、保守作業、故障時の対応が求められます。
具体的には、設備が正常に動作しているか監視し、必要に応じて修理やメンテナンスを計画・実施を行います。
また、安全な運用を確保するために、設備に関する定期的な点検や保守作業を行い、必要な対策を講じます。
さらに、設備に故障が発生した場合には、迅速に対処し、適切な修理も行います。
電気主任技術者の役割は、設備が安全かつ効率的に運用されるように管理することであり、これによって生産性や安全性が左右されます。
設備安定と経済的運転検査
電気主任技術者は、高圧受電設備などの設備の安定性を確保し、経済的な運転を検査する仕事も担います。
具体的には、電気工作物が正常に運転され、電力の無駄な使用を最小限に抑えられるように監視し、適切な設備安定性の確保をします。
このような働きにより、設備が安定して運転されることで、効率的な電力供給が可能となり、無駄な電力消費の削減に繋がるのです。
系統の変更
系統の変更とは、電気設備の安全基準や規則を作成し、必要に応じて変更する作業です。
電気工作物の建設、点検、検査、定期的な保守、設計などを管理し、監督します。
要するに、電気主任技術者は電気設備が安全に運用され、法律や規制に従っていることを確保し、必要に応じて基準や規制を変更し、適切な措置を講じます。
認められない仕事内容
次は、実務経験として認められない仕事内容について紹介します。
非電気関連の業務
非電気関連の業務とは、電気工作物や電気設備と直接的に関連しない仕事や業務を指します。
具体的には、建築や土木工事など、電気に関係のない分野での作業やプロジェクトが該当します。
電気主任技術者の実務経験は、電気工作物や電気設備に関連する業務である必要があり、非電気関連の業務はその要件を満たさないため、実務経験として認められません。
要するに、電気主任技術者の実務経験は電気に関連した業務に限定されており、他の分野の業務はカウントされないということです。
電気工事士としての業務
電気工事士は電気設備の設置と配線工事を専門的に行い具体的な実施作業が中心です。
一方、電気主任技術者は設備の管理と監督を担当し、設備が正常に稼働し、安全に運用されるように監視し、必要な修理やメンテナンスを計画・実施する業務が主です。
この役割の違いにより、電気工事士の業務内容は電気主任技術者の実務経験には含まれず、実務試験の対象外とされています。
電気工事士は電気設備の設置と配線工事を通じて、安全性と法規制への遵守を確保しますが、電気主任技術者はそれ以上に、電気工作物全体の安全性と法令遵守を担当し、高度な管理スキルと技術的な知識が必要です。
したがって、これらの役割の違いから、電気工事士の実務経験は電気主任技術者の実務試験には認められないです。
非公認施設での業務
電気主任技術者の実務経験に認められる仕事は、主に公認の電気工作物や施設での作業に限定されます。
これは、公的な規制や安全基準が適用され、専門的な監督と管理が必要な施設や設備において、電気主任技術者が実践することが求められるためです。
電気主任技術者の役割は、公的な安全性と法令遵守を確保することが主要な使命であり、そのためには公認された施設や設備において豊富な実務経験を積み重ねる必要があります。
適切な指導や設計に従わない作業
電気主任技術者は、適切な指導や設計に従って作業を行う責任があります。
電気主任技術者は、安全基準に適合した作業を確保する責任があります。
安全性が欠けた現場での作業・設計は、事故や故障の原因となり得ます。また、電気工作物に関連する法令や規制も順守する必要があります。
要するに、電気主任技術者は、安全性、法令順守、品質管理、信頼性を確保するために、適切な指導や設計に従った作業を行う責任があります。
それに従わない実務経験は、資格の要件を満たすものとはみなされないわけです。
実務経験がなくても電気主任技術者になれる!
上記で解説した実務経験の認定には細かい基準があり、経験を積むのは大変だと感じてしまいます。
実務経験がない方や、認定学校を卒業したけど、現場で実務を積んでいる暇はない!という方に、筆記試験での受験をおすすめします。
電気主任技術者になるには二種類方法があり、実務経験による認定と、国家試験の受験があり、認定学校を卒業したけど実務経験はない、現場で実務を積む時間がない方は筆記試験での受験がおすすめです。
国家試験である電気主任技術者試験は一般的にハイレベルな試験だと言われています。今年2023年に行われた試験の結果によると、その合格率はわずか15%です。
また、電気主任技術者試験は、難易度が低めとされている三級でも、必要な勉強時間は500~1,000時間ほどと言われており、膨大な勉強時間を必要する一方で、合格率が低い難関試験であるということがわかります。
以下の表は、試験種別にまとめた合格までに必要な勉強時間の目安です。
()内は週に20時間ほど勉強をすると仮定した際の、取得までにかかる期間です。
試験種別 | 勉強時間目安 |
電験一種 | 1500〜2000時間以上(2年間) |
電験二種 | 1000〜1500時間以上(1年間) |
電験三種 | 500〜1000時間以上(半年間) |
参考:「令和 4 年度第三種電気主任技術者下期試験の結果について 」一般財団法人 電気技術者試験センター
実務経験がある場合の待遇
上記で、筆記試験の概要をご紹介しました。
実務試験認定者は、実務に伴うスキルを持っていますので、難関試験を突破した人と比べてもなお、実務経験がある方の方が就職活動では有利になりやすく、即戦力として評価されやすいでしょう。
キャリアアップについて
実務経験があると、電気主任技術者としてのスキルを磨いてきたことが証明されます。
現在、高圧電気設備をはじめ自家用の設備は増加傾向にあり、一年あたりで0.6%増加しています。
給与面について
実務経験があると、雇用主は給与交渉時にその経験を評価し、高い給与を提示する可能性が高くなります。
新設や保守・管理の場面を行う場面において、電気主任技術者は不可欠な存在であり、企業も高いオファーを提示する可能性が高いです。
高度なスキルや専門知識を持っている場合は、市場価値が高まり、給与も増額されることがあります。
転職の有利度
他の企業やプロジェクトへの転職がしやすくなり、実際に企業で働いてみたけど合わなかったと感じると転職することもできます。
先述の通り、電気主任技術者は企業としても獲得した人材なため求人市場での競争力が高いです。
電気主任技術者は複数人をマネジメントしていることが多いことからも、そうしたマネジメント経験を評価してもらえ異なる業種・プロジェクトへの転職も可能です。
実務経験がない場合の待遇
建設業界は人手不足であり、実務経験がなかったとしても、需要は十分に見込めます。
ですが、実務経験を持つ人と並んだ時に採用されやすいのは、経験を積んだ人です。
実務経験がない場合、他の応募者との競争が激しくなると考えられます。
また、資格を持っていても、特定の電気設備やプロジェクトに参加する際に制約が生じることがあります。
雇用主は、大規模なプロジェクトには信頼している実務経験者に参加させるでしょう。
キャリアについて
実務経験がない場合、初歩的な職位からのスタートが一般的です。
経験が浅いため、キャリアアップには時間がかかることがあります。
給与について
一般的に初任給は基本給に基づいて決まるでしょう。
これは実務経験がないために、電気主任技術者としての貢献度がまだ明確ではないとみなされるためです。
転職のしやすさ
実務経験がない人は、初めての転職は難しい可能性があります。
しかし、実務経験を積みながらスキルを向上させ、業界で認められるようになれば、転職の機会が増えます。
また、建設業界は人手不足であり、転職時に実務経験が少なかったとしても、需要は十分に見込めます。
電気主任技術者になるなら実務経験を積むべき
実務経験を積むと得られる大きなメリットは以下の二つです。
収入が高くなりやすい
電気主任技術者の資格を得るためには高度なスキルと専門知識が必要です。
実務経験者が資格を取得すると、経験と資格が相まって雇用主にとって魅力的な人材となります。
また、電気主任技術者は、高度なスキルを要求される難しい業務を行うことで、収入アップの機会が広がります。
さらに安全性や規制順守が重要視されている、電気関連の分野では、資格保持者への需要が増加しています。
そのため、電気主任技術者の資格は雇用市場において競争力が高く、高収入になる傾向にあります。
即戦力として評価されやすい
実務経験者は、理論だけでなく実際の現場での問題解決やプロジェクトの実行の経験があることで、新たな仕事やプロジェクトに迅速に適応し、生産的に働くことができます。
実務経験は、理論的な知識を実践に移す能力を示し、企業にとって価値があると評価されるでしょう。
さらに、実務経験者はプロジェクトやチームでリーダーシップを発揮した経験があると考えられます。
したがって、電気主任技術者の資格と実務経験の組み合わせは、企業にとって価値があり、即戦力として採用されやすくなります。
まとめ
この記事では、電気主任技術者になる手段は、国家試験受験と、実務経験認定の二つがあると説明しました。
電気主任技術者試験は合格率が低く、難しい試験です。
また、実務経験認定には、実務経験の有無が問われますが、それは特定の認定校を卒業しているという前提条件をクリアしなければなりません。
そのため、この厳しい条件があるので、「電気主任技術者認定校を卒業している方」のみ実務経験の認定を申請した方が良いのではないかと感じました。
申請する人は限られますが該当する人にとっては、他者に引けを取らない強みになるでしょう。