自家用電気工作物を設置している事業者には、電気主任技術者を選任する義務があります。電気事業法第43条第1項に定められた義務で、怠った場合は300万円以下の罰金です。
ただし「選任」と一口に言っても、自社の社員を充てる形もあれば、外部の技術者に委託する形も、そもそも選任しなくてよいケースもあります。手続きも、届出で済むものと事前の承認が必要なものに分かれます。ここを取り違えると、承認が下りないまま設備を使い始めることになりかねません。
この記事では、選任義務が生じる基準から、5つの選任形態の違い、兼任・外部委託の要件、届出の手続きまでを、電気事業法と産業保安監督部の一次情報をもとに整理します。記事の後半では、電験を持っている人が選任される立場になるにはどうすればいいかという、キャリア側の話も扱います。
電気主任技術者の選任とは
法律上の位置づけ
電気事業法第43条第1項は、次のように定めています。
出典:電気事業法(e-Gov法令検索)
義務を負うのは電気工作物を設置する者(設置者)であって、選任される技術者本人ではありません。ここは押さえておいてください。外部の保安法人に委託した場合でも、法令上の責任は設置者に残ります。
選任しないと300万円以下の罰金
罰則は2段構えです。
| 違反の内容 | 罰則 |
| 主任技術者を選任しなかった(法43条1項違反) | 300万円以下の罰金(法118条7号) |
| 選任・解任の届出をしなかった、または虚偽の届出をした(法43条3項違反) | 30万円以下の罰金(法120条1号) |
出典:電気事業法 第118条・第120条(e-Gov法令検索)
選任そのものを怠るのと、届出を怠るのとでは、罰則が10倍違います。
選任義務があるのはどの電気工作物か
対象は「事業用電気工作物」
選任義務の対象は事業用電気工作物です。一般家庭や小規模店舗の設備(一般用電気工作物)は対象外です。
実務上、判断の目安になるのは受電電圧が600Vを超えるかどうかです。高圧(6,600V)で受電しているビル・工場・商業施設は自家用電気工作物にあたり、選任義務が生じます。キュービクルがあるかどうかで見当をつけることもできます。
小規模事業用電気工作物は選任不要(令和5年3月〜)
令和5年3月20日施行の改正で「小規模事業用電気工作物」という区分が新設されました。この区分に該当する設備には、電気主任技術者の選任義務も保安規程の届出義務もありません。
| 設備 | 小規模事業用電気工作物にあたる規模 |
| 太陽電池発電設備 | 出力10kW以上50kW未満 |
| 風力発電設備 | 出力20kW未満 |
出典:電気事業法 第38条第3項、関東東北産業保安監督部・中部近畿産業保安監督部「小規模事業用電気工作物について」
ただし義務がゼロになるわけではありません。代わりに次の3つが課されます。
・技術基準への適合を維持すること
・基礎情報の届出(使用開始前。変更時・該当しなくなった時も届出が必要)
・使用前自己確認(技術基準への適合を自ら確認し、使用開始前に結果を届け出る)
選任が不要になるケース
| ケース | 根拠 |
| 一般用電気工作物 | そもそも事業用電気工作物ではない(法38条1項) |
| 小規模事業用電気工作物 | 法42条1項の括弧書きにより保安の款の適用から除外 |
| 外部委託承認を受けた自家用電気工作物 | 施行規則52条2項「電気主任技術者を選任しないことができる」 |
| 鉱山保安法のみが適用される一定の自家用電気工作物(発電所・蓄電所・変電所・送電線路を除く) | 施行規則52条2項後段 |
出典:電気事業法、電気事業法施行規則(e-Gov法令検索)
免状の種類によって監督できる範囲が違う
誰でも選任できるわけではなく、設備の電圧に応じて必要な免状の種類が決まっています。根拠は電気事業法施行規則第56条です。
| 免状 | 保安監督できる範囲 |
| 第一種電気主任技術者 | 制限なし |
| 第二種電気主任技術者 | 電圧17万V未満の事業用電気工作物 |
| 第三種電気主任技術者 | 電圧5万V未満の事業用電気工作物(出力5,000kW以上の発電所または蓄電所を除く) |
出典:電気事業法施行規則 第56条(e-Gov法令検索)
第三種の除外規定に「蓄電所」が入っている点は見落とされがちです。系統用蓄電池の案件が増えているので、出力5,000kW以上の蓄電所には第三種では選任できないことを覚えておいてください。
ビル・工場の高圧受電設備(6,600V)はいずれも5万V未満なので、実務上は第三種でカバーできる範囲が最も広いことになります。
選任の形態は5つ。届出で済むものと承認が必要なものがある
ここが最も間違えやすいところです。形態によって「誰が主任技術者になるか」も「手続きが届出か承認か」も変わります。
| 形態 | 誰が主任技術者になるか | 手続き | 様式 |
| 自社選任(専任) | 設置者の役員・従業員で、その事業場に常時勤務する者 | 届出 | 様式第46 |
| 外部選任 | 設置者の従業員ではないが、委託を受けてその事業場に常時勤務する者 | 届出(+委託契約書の写し) | 様式第46 |
| 兼任 | すでに別の事業場で選任されている者が、2か所目以降を兼ねる | 承認申請(事前) | 様式第44 |
| 許可選任 | 免状を持たない者(主務大臣の許可が必要) | 許可申請(事前) | 様式第45 |
| 外部委託承認 | 主任技術者を選任しない(電気管理技術者・電気保安法人に委託) | 承認申請(事前) | 様式第43 |
出典:電気事業法施行規則 第53条・第53条の2・第54条・第55条、中国四国産業保安監督部「電気主任技術者選任の方法」、中部近畿産業保安監督部「主任技術者に関する手続き」
統括電気主任技術者
上記5形態とは別に、同一の設置者が持つ複数の事業場を、統括事業場から一体的に管理する「統括電気主任技術者」の枠組みがあります。経済産業省の内規に基づく運用で、主に発電所を複数持つ事業者が使います。
令和4年6月の内規改正で、被統括事業場に統括電気主任技術者が2時間以内に到達できない場合でも、担当技術者を配置することで対応できるようになりました。担当技術者になれるのは、電気主任技術者免状(第一種〜第三種)または電気工事士免状(第一種・第二種)の交付を受けた者、それぞれの試験合格者、認定校で必要科目を修めて卒業した者などです。
出典:経済産業省「電気主任技術者制度における統括行為の要件明確化」に係る意見募集結果(令和4年)、主任技術者制度に関するQ&A(令和6年5月版)
管理できる被統括事業場は原則6未満で、7以上になる場合は保安管理業務の遂行上支障がないか経済産業省が個別に慎重に判断する運用です。
兼任の要件
すでにどこかの事業場で選任されている人が、別の事業場も兼ねる形態です。事前の承認申請が必要で、届出では足りません。
6つの要件
・兼任できる事業場は、すでに選任されている事業場を含めて6か所以内
・最大電力2,000kW未満(発電所は出力2,000kW未満。ただし太陽電池発電所・蓄電所は出力5,000kW未満)
・電圧7,000V以下で受電・連系するもの
・常勤場所または自宅から2時間以内に到達できること
・同一企業グループ(親会社・子会社・同一親会社の子会社)または同一敷地内であること
・各事業場に連絡責任者が選任されていること
出典:中部近畿産業保安監督部近畿支部「電気主任技術者兼任承認申請」
申請時の添付書類は、免状の写し、社員証または在籍証明書、執務に関する説明書、兼任を必要とする理由書など。在籍確認の書類として名刺は認められません。
グループ会社の範囲
「親会社・子会社」の判断は会社法第2条第3号および会社法施行規則第3条によります(議決権50%超など)。ここで実務上つまずくのが次の点です。
出典:主任技術者制度に関するQ&A(令和6年5月版)
「同一敷地内」とは、一方の事故がもう一方の保安に密接に影響する関係を指します。物理的に離れていれば該当しません。
兼任と統括は併用できない
Q&Aに明記されています。「発電所等を直接統括する事業場を含んだ兼任は認められません。兼任と統括行為はそれぞれ独立したものであり、併用できません」。どちらの枠組みで組むかを最初に決める必要があります。
外部委託承認の要件
主任技術者を選任せず、電気管理技術者(個人)または電気保安法人に保安管理業務を委託する制度です。中小規模の事業場では最も一般的な形といえます。
対象となる事業場
| 設備 | 規模の上限 |
| 需要設備 | 電圧7,000V以下で受電するもの |
| 太陽電池発電所 | 出力5,000kW未満(電圧7,000V以下で連系) |
| 蓄電所 | 出力5,000kW未満(電圧7,000V以下で連系等) |
| 水力・火力・風力発電所 | 出力2,000kW未満(電圧7,000V以下) |
| その他の発電所 | 出力1,000kW未満(電圧7,000V以下) |
| 配電線路を管理する事業場 | 電圧600V以下 |
出典:電気事業法施行規則 第52条第2項、関東東北産業保安監督部「保安管理業務外部委託承認制度」
委託先に必要な実務経験
受託する側(電気管理技術者・保安法人の保安業務従事者)には、免状の種類に応じた実務経験が求められます。
| 免状 | 原則 | 保安管理業務講習の修了後 | 講習+実技訓練の修了後 |
| 第一種 | 3年 | 3年 | 2年 |
| 第二種 | 4年 | 3年 | 2年 |
| 第三種 | 5年 | 3年 | 2年 |
出典:中部近畿産業保安監督部近畿支部「保安管理業務外部委託承認制度」
免状の交付を受けた日より前の期間については、その2分の1を計上できます。第三種でも実技訓練まで受ければ2年で要件に届きます(令和6年の緩和)。「第三種は5年必要」という数年前の情報のまま計画を立てていると、1年以上を損します。
令和7年4月から、現地点検が3か月に1回まで延伸できる
外部委託事業場の点検は月1回以上が原則でしたが、令和7年4月1日施行の告示改正により、一定の条件を満たす需要設備は3か月に1回以上まで延伸できるようになりました。
条件は2つです。
・低圧電路の絶縁状態および負荷を適確に監視できる装置を有すること
・主遮断装置、および保安上の責任分界点から主遮断装置までの間に施設する開閉器・遮断器・配線が適切に更新されていること
出典:経済産業省「電気事業法施行規則第52条の2第1号ロの要件等に関する告示(平成15年経済産業省告示第249号)等の一部改正について」(令和7年4月1日施行)
「適切に更新されている」かどうかは、メーカーの推奨耐用年数を基礎に、利用状況や使用環境を踏まえて産業保安監督部が個別に判断します。一律の基準があるわけではないので、事前に相談してください。
届出・申請の手続き
| 手続き | 区分 | 様式 | タイミング |
| 主任技術者の選任・解任 | 届出 | 様式第46 | 遅滞なく(事後) |
| 外部選任 | 届出 | 様式第46+委託契約書の写し | 遅滞なく |
| 兼任 | 承認申請 | 様式第44 | 事前 |
| 許可選任 | 許可申請 | 様式第45 | 事前 |
| 外部委託 | 承認申請 | 様式第43 | 事前 |
出典:電気事業法施行規則 第53条〜第55条、各産業保安監督部の手続き案内
提出先は、事業場を管轄する産業保安監督部(支部・監督署)です。
いつまでに選任するか
法文上は「遅滞なく」届け出るとされていますが、選任そのもののタイミングは別です。監督部の案内では「電気工作物の工事に着手する時までには主任技術者が選任されている必要があり、その選任された主任技術者の監督の下で工事を進める」とされています。
届出については、東北支部が「概ね30日以内」という運用目安を示しています。法文は「遅滞なく」なので、30日は監督部の運用上の目安と理解してください。
電験を持っている人が「選任される立場」になるには
ここからはキャリアの話です。
選任に実務経験は不要
意外に知られていませんが、選任されること自体に実務経験の要件はありません。施行規則第52条第1項は、事業場の区分に応じて免状の交付を受けた者から選任すると定めているだけで、経験年数の条件はついていません。
つまり電験三種に合格して免状を受けたその日から、選任される資格はあります。あとは、選任してくれる事業場に所属できるかどうかの問題です。
なお、免状を実務経験で取得する「認定取得」の話とは別物です。そちらは電気主任技術者の実務経験とは?認定に必要な年数と積み方を解説で扱っています。
働き方は3通り。それぞれ性格が違う
| 働き方 | 立場 | 特徴 |
| 自社選任 | 設備を持つ会社の社員(ビル管理会社、工場、商業施設など) | 1つの事業場に常時勤務。設備を深く見られる。転勤が発生しにくい |
| 外部選任 | 管理会社の社員として、委託先の事業場に常駐 | 常駐先が変わることがある。複数の物件を経験できる |
| 保安法人・電気管理技術者 | 保安法人の社員、または独立した個人事業主 | 複数の事業場を巡回。独立を視野に入れられる。ただし外部委託の実務経験要件を満たす必要がある |
第三種でどこまで選任できるか
第三種で選任できるのは電圧5万V未満の事業用電気工作物(出力5,000kW以上の発電所・蓄電所を除く)です。ビル・工場・商業施設の高圧受電設備はすべてこの範囲に入るので、求人の数で言えば第三種が最も多くなります。
特別高圧を扱う現場や大規模発電所に関わりたい場合は第二種以上が必要になりますが、まず第三種で選任実績を作ってから上位を目指すのが現実的な順序です。
よくある質問
電気主任技術者は常駐しなければいけませんか?
形態によります。自社選任・外部選任はその事業場に常時勤務することが前提です。一方、兼任は複数の事業場を持てますし、外部委託承認を受ければそもそも選任しません。常駐が必要かどうかは、どの形態を選ぶかで決まります。
専任・兼任・兼務は何が違いますか?
専任は、選任された事業場に常時勤務して職務を行う形態です。兼任は、すでに選任されている事業場に加えて別の事業場の職務も行う形態で、事前の承認が必要です。兼務は、別の事業場で選任される形態を指します。監督部のQ&Aでは、許可主任技術者は専任のみ、設置者以外からの派遣者は兼務不可とされています。
50kWの太陽光発電設備を設置しました。選任は必要ですか?
出力50kW以上であれば小規模事業用電気工作物にはあたらないため、選任義務が生じます。10kW以上50kW未満であれば小規模事業用電気工作物にあたり、選任は不要ですが、基礎情報の届出と使用前自己確認が必要です。境界の判断は監督部に確認してください。
外部委託にすれば主任技術者は不要になりますか?
選任は不要になりますが、法令上の保安責任は設置者に残ります。また、外部委託は誰にでも委託できるわけではなく、委託先が実務経験などの要件を満たしている必要があり、事前の承認も必要です。
選任の届出を忘れていました。どうなりますか?
届出義務違反は30万円以下の罰金の対象です。ただし、より重いのは選任そのものを行っていなかった場合で、こちらは300万円以下の罰金になります。気づいた時点で速やかに管轄の産業保安監督部に相談してください。
まとめ
・事業用電気工作物の設置者には、電気主任技術者の選任義務がある(電気事業法第43条第1項)。怠れば300万円以下の罰金
・小規模事業用電気工作物(太陽電池10kW以上50kW未満、風力20kW未満)は選任不要。ただし基礎情報の届出と使用前自己確認は必要
・監督できる範囲は免状で決まる。第一種は制限なし、第二種は17万V未満、第三種は5万V未満(出力5,000kW以上の発電所・蓄電所を除く)
・選任形態は5つ。自社選任・外部選任は届出、兼任・許可選任・外部委託は事前の承認が必要
・「外部選任」と「外部委託」は別制度。混同すると手続きを丸ごと落とす
・兼任は6か所以内・2,000kW未満・7,000V以下・2時間以内・同一グループまたは同一敷地内・連絡責任者。親会社と孫会社の兼任は原則不可
・外部委託の実務経験は、講習+実技訓練で一律2年まで短縮できる(令和6年)
・令和7年4月から、条件を満たせば外部委託事業場の現地点検を3か月に1回まで延伸できる
・選任されること自体に実務経験の要件はない。免状があれば、選任される資格はある
選任は「制度をどう組むか」の問題であると同時に、有資格者にとっては「どういう立場で電気に関わるか」の選択でもあります。免状を持っているのに選任されないまま何年も過ぎるのは、キャリアとして大きな機会損失です。いまの職場で選任される見込みがあるのか、ないならどこへ行けばあるのか。免状を取った時点で、一度整理しておく価値があります。
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| 年間面談数 | 約1,000件 |
| 累計支援者数 | 約3,000名(面談・キャリア相談を含む) |
| 取引建設会社 | 1,000社以上(2026年8月時点) |
| 支援領域 | 建築・電気・管工事の施工管理/設備管理/設計・積算/発注者側(施主) |