大規模な電気施設や工場・発電所などの工事では選任の電気主任技術者が必要になり、そもそも運営することができない事業所も出てきます。
国家資格の一つで、電気設備保安などを扱う法律の電気事業法において、事業用電気工作物を設置する業者は、その工事・維持・運用に関する保安を行うための保安規定を定め、経済産業大臣に届け出る必要があります。
そして、電気事業法の第43条において、事業用電気工作物を設置する業者は、工事・維持・運用に関する保安・監督業務をさせるため電気主任技術者を選任する必要があります。
事業者による任意ではなく法律によって定められていますが、具体的にどのような場面で電気主任技術者を選任する必要があるのか疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。
電気主任技術者の選任とは
電気主任技術者は、特定の電気工作物や電気設備の安全性と適切な運用を確保するため、専門的な技術知識を持つ人が指名されることを意味します。
法律により、各事業場や設備では、自家用電気工作物の設置時に施工やメンテナンスを監督するため、電気主任技術者を任命する必要があります。
任命には様々な条件があり、事業場や設備の特徴や電気主任技術者の特性によって異なる要件が設定されます。
専任・兼任・兼務の違い
電気主任技術者の選任には、より詳細な形態分けがあります。具体的には「専任」「兼任」「兼務」という3つに分けることができます。
専任 | 選任された事業場に常時勤務し、主任技術者としての職務を行うことを指します。具体的には、電気主任技術者が特定の役割や責任を専属で担当することを意味します。 |
兼任 | 選任された事業場に加えて、別の事業場でも主任技術者の職務を行うことを指します。具体的には、1人の電気主任技術者が複数の異なるプロジェクトや施設に同時に配置され、それぞれの場所で役割を担当することとなります。 |
兼務 | すでに選任されている事業場はありませんが、常時勤務している事業場とは別の事業場で、主任技術者として選任されることを意味します。 |
上記は、電気主任技術者の選任および選任形態についての説明でした。選任形態は、状況や法的要求に応じて異なる場合があります。
特徴として、電気主任技術者は必ず一つの事業場に常時勤務する必要はなく、要件を満たすことで複数の事業場で主任技術者として選任されることができる点が挙げられます。
選任に関する法的規定とは
電気事業法は、電気の設備保安などを扱う法律として関連する法的規定の一つです。
「電気事業法第42条」によると、事業用電気工作物を設置する業者は、工事・維持・運用の安全を確保するために、保安規定を定め、それを経済産業大臣に届け出なければなりません。
そして、電気事業法の第43条第1項には、自家用電気工作物を設置する人は、事業場や設備ごとに電気工作物の工事、維持、運用の安全の監督をするために、電気主任技術者を選任しなければならないと規定されています。
従って、事業用の電気工作物を取り扱う際には、必ず電気主任技術者を指名する必要があります。
一般用電気工作物(600ボルト以下)などの低圧なものに関しては、電気事業法によって電気主任技術者の選任が義務づけられていません。
電気主任技術者の選任要件
電気主任技術者の選考要件は、電気設備の安全な運転を確保するための重要な基準です。
一般に、専門資格、学歴、職歴、法的要件の遵守が必要となります。安全規制の知識と継続的な教育も重視されます。
電気主任技術者には 1 ~ 3 種類があり、種類ごとに扱える電圧の数に制限があります。これらの要件には、施設が処理できる電圧の数に見合った資格を持つ人材の選択も含まれます。
第1種
すべての事業用電気工作物を扱えます。
最も高度な技術者で、大規模な電気設備や高電圧のシステムの工事や保守・運用といった業務における保安の監督者に就くことができます。
例えば、製鉄所、新幹線の受電設備や原子力関係の研究施設などです。ほかにも、電力会社が扱うような火力、原子力といった超高圧の発電所も扱うことができます。
第2種
電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物を扱えます。例えば、鉄道の電気設備、大型ショッピングセンターなどを扱うことができます。
中規模の電気設備や一般的な電気システムの運用・管理を担当。第一種に比べて技術要件がやや低くなります。
第3種
電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物を扱えます。ただし、出力5千kW以上の発電所は除外します。
小規模の工場や、ビル、マンションなどは通常5万ボルト未満であり、取り扱うことができます。
小規模な電気設備や低電圧のシステムの運用・管理を担当し、技術的な要件は比較的緩やかで、一般的な施設に適しています。
電気主任技術者を選任する際は届出が必要?
選任と聞くと、何かしら手続きや届出が必要なのでは?と思われるかもしれません。
届出が必要?
電気主任技術者を選任する際、届出が必要です。
電気事業法に基づくと、電気主任技術者を選任した日から30日以内に選任届を経済産業省の地方経済産業局もしくは電気安全環境研究所に届け出る必要があります。
届出の期限・届出先
主任技術者関連の書類や、保安規定関連の書類は経済産業大臣あてに提出ですが、具体的には各地域の産業保安監督部の電力安全課への提出となります。
地域ごとに異なる場合もあるため、具体的な提出先については、地元の関連機関のガイドラインやウェブサイトを参照してください。
また、届出の期限については以下の通りです。
「主任技術者の選任又は解任届出書」 | 設置者が選任した後遅滞なく届出しなければなりません。 支部によっては1か月以内など案内がされている場合もあります。 |
「主任技術者兼任承認申請書」「主任技術者選任許可申請書」 | 事象発生時速やかに申請しなければなりません。
届出書や申請書に合わせて、主任技術者の免状の写しや、理由書などが必要になります。期限については遅滞なくとありますが通常は工事や施設の開始前に行われる必要があります。現場の工事に着手する時点ではすでに工事の監督を必要とし、特に工事計画の手続を必要とする場合には、工事計画の作成にも携わる必要があるので、これらを考慮し、工事着手前の十分な期間において選任し、選任後は遅滞なく届出されておく必要があります。 |
「保安規定届出書」 | 事業用電気工作物の使用開始前までに届出が必要です。 |
「保安規定変更届出書」 | 変更後遅滞なく届出する必要があります。 |
記入例
届出の際の必要書類の記入例が各関連機関のウェブサイトに掲載されていますので、様式のダウンロードをする際にはよく確認しながら記入されることをおすすめします。
以下は中部近畿産業保安監督部のウェブサイトのリンクです。場合に応じて必要な書類の一覧と様式、記入例が載せられています。
経済産業省中部近畿産業保安監督部近畿支部HP
https://www.safety-kinki.meti.go.jp/denryoku/jikayou/01shunin/index.htm
電気主任技術者を選任する際、外部委託でも大丈夫?
結論、条件を満たせば外部委託可能です。
自家用電気工作物の設置者は、その工事、維持、運用の保安監督をさせるために、電気主任技術者を事業場ごとに選任しなければならないと電気事業法第43条で定められています。したがって原則、設置者から選任の必要がありますが、自社の組織内で有資格者を確保できない等の事情があるため、外部選任と外部委託制度が設けられています。
外部選任とは電気主任技術者を自社ではなく外部の会社(管理会社等)から選任することをいいます。
以下具体的に「自社選任」と「外部委託」について説明します。
自社選任
自社内の電気工作物を自社の従業員(電気主任技術者の有資格者)を選任することをいいます。
自社選任の場合においても、各届出書は必要になります。
また、届出の際には電気主任技術者資格を有していることを示すための免状の写しや社員であることを示す書類等も必要となります。
外部委託
一定の要件を満たしている法人や個人と保安管理業務に関する委託契約を直接結び、外部委託承認申請書を提出し承認を受けた場合に可能になるかたちです。
これにより、電気主任技術者を事業所内に選任し、常駐させなくてもよくなります。
ただし、一定の規模未満の事業場だけが外部委託することができることとなっており、外部委託が可能な事業場については、「電気事業法施行規則第52条第2項」に定められています。
具体的には、
- 自家用電気工作物であること
- 出力1千kW未満の発電所、電圧7千V以下での受電をする設備、電圧6百V以下配電線路を管理する事業所
などがあります。
また、委託契約の相手方に求められている規定は、「電気事業法施行規則第52条の2」に定められており、具体的な内容については「経済産業省告示第249号」で規定されています。保安協会などが多いですが個人の場合もあります。
外部委託はあくまで専門知識を有するところについて委託するだけで、電気事業法の履行義務は設置者にあることに変わりはありません。
外部選任
外部の会社から電気主任技術者を選任することを外部専任と言います。
小規模で専門の電気主任技術者を常勤で雇うことが難しい場合や特定のプロジェクトや期間限定で専門知識が必要な場合は外部の企業に電気主任技術者を専任することがあります。
電気主任技術者を選任する際の注意点
兼任も例外規定に該当する
既に選任されている事業場に加えて、別の事業場の主任技術者としての職務を行いたい場合は条件を満たし、書類を提出することで例外的に兼任が可能となります。
条件は以下の通りです。
- 兼任させようとする事業場の最大電力が2,000kW未満かつ受電電圧が7,000V以下。
- 兼任できる事業場数は、選任されている事業場を含めて6カ所以内。
- 同一又は同系列の会社若しくは同一敷地内にある事業場であって、両設置者間で別途、「主任技術者制度の解釈及び運用」の要件を満たす契約を締結していること。
- 第1種、第2種、第3種電気主任技術者免状の交付を受けていること。
- 常勤場所又は自宅から2時間以内に到達できること。
- 電気事業法施行規則第53条第2項第5号の頻度に準じて点検を行うこと。
- 電気主任技術者に連絡する責任者が選任されていること。
免状交付者以外の選任
電気主任技術者の免状の交付を受けていなくとも、一定の条件の中で許可を得られれば、選任することができます。一般に許可主任技術者や許可選任などと呼ばれます。「電気事業法第43条第2項」にて定められています。
具体的には以下のような事業場で許可を受けることにより電気主任技術者の免状ない者を選任できます。
次に掲げる設備又は、事業場の設置の工事の為の事業場
- 出力500kW未満の発電所
- 電圧10000V未満の変電所
- 最大電力500kW未満の需要設備
- 電圧10000V未満の送電線路
- 非自航船用電気設備であって出力1000kW未満の発電所又は最大電力1000kW未満の需要設備
次に掲げる設備又は事業場のみを直接統括する事業場
- 出力500kW未満の発電所
- 電圧10000V未満の変電所
- 最大電力500kW未満の需要設備
- 電圧10000V未満の送電線路
- 非自航船用電気設備であって出力1000kW未満の発電所又は最大電力1000kW未満の需要設備
また、誰でもなれるというわけではなく、次の条件に該当する必要があります。
- 学校教育法による高等学校又はこれと同等以上の教育施設において、電気事業法の規定に基づく主任技術者の資格等に関する省令第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 第1種電気工事士を保有する者
- 第1種電気工事士試験に合格した者
- 旧電気工事技術者検定規則による高圧電気工事技術者の検定に合格した者
- 公益事業局長又は通商産業局長の指定を受けた高圧試験に合格した者
- 「最大電力100kW未満(非自航船用電気設備にあっては最大電力300kW未満)の需要設備」又は「電圧600V以下の配電線路を管理する事業場のみを直接統括する事業場」に係る場合は、上記に掲げる者のほか、次のいずれかに該当する者
- 第2種電気工事士を保有する者
- 学校教育法による短期大学若しくは高等専門学校又はこれらと同等以上の教育施設の電気工学科以外の工学に関する学科において一般電気工学(実験を含む。)に関する科目を修めて卒業した者
- 1~6に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有する者
選任が免除となる施設や設備がある
(財)関東電気保安協会又はその他の公益法人に所属する電気管理事務所との間において電気保安に関する業務契約を締結し、通産局長の承認を得れば主任技術者を選任する必要はありません。
- 最大電力1000kw未満の発電所
- 出力500kw未満の発電所
- 低圧配電線路の管理事業所
電気主任技術者の選任方法
電気主任技術者の選任は、電気事業法42条で事業用電気工作物設置者において「保安規定の作成と届け出・尊守」の義務が定められています。
選任方法も規則があり、規則に従った選任方法である必要があります。
まずは、選任者を選ぶ前の注意点・確認事項から確認していきましょう。
実務経験を確認する
資格を持っていても、これまでの職歴によって得意分野、不得意分野があるため、実務経験を考慮して選考することが重要です。
また、電気主任技術者の資格取得方法には、試験合格と学校卒業+実務経験があります。
実務経験を積んで資格を取得する場合、認定校での学業を終え、一定の実務経験が必要です。
経験の必要年数は学校の種類によって異なり、高校卒業で3年以上、専門学校や短大卒で2年以上、大卒で1年以上となります。
資格取得には、第1種、第2種、第3種の種別ごとに異なる学歴と経験が求められます。免状取得において実務経験とし認められる実務経験かどうかを確認しておく必要があります。
まとめ
さまざまな条件に応じて選任の方法や要件が変わることが分かりました。
工事や施設の開始には届出を終えておく必要があり、かつ電気主任技術者の数は限られている状況もあるため、事業場ごとに届出内容や届出時期についてはよく注意して電気主任技術者を選任していく必要があるといえます。