建築士は建築物の設計や工事監理を行う職種で、ビルやデパート、戸建て住宅などあらゆる建築物を建てる上で欠かせない存在です。
上述した業務は建築士の独占業務であり、建築士でなければ行えない専門性の高いものです。
そのため、建築士は建設業界において需要の高い職種であり、建設業界の他職種と比較して平均年収が高い傾向にあります。
本記事では、建築士全体から見た平均年収の金額や、取得した資格によってどの程度年収が変動するのかなど、建築士の年収に関する情報を紹介していきます。
建築士の年収
一級建築士、二級建築士など建築士の年収に男女差があるのか気になる方も少なくないはずです。
厚生労働省が公表した、「平成29年賃金構造基本統計調査」によると、一級建築士の年収は男性がおよそ653.5万円、女性が560.9万円となっており、やや男性が高い傾向にあります。
建築士は、一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類のいずれかの国家資格を取得していなければ名乗ることのできない専門性の高い職種で、国家資格を取得するために建築専門の大学の卒業や既定の年数を超えた実務経験等の条件を満たす必要があります。
そのため、建築士は一般的な職種と比較すると就職や転職のハードルが高い職種であり、その分、他の職種と比較して年収が高額になりやすい傾向にあります。
一級建築士は全ての建築物の設計が行えるため、学校や高層ビル、ショッピングモール、病院などの大型施設から戸建て住宅まで、幅広い建物に携われます。
大型の建築物は建築にかかる費用も高額になり、従事する作業者にも高い技術力が求められます。
そのため、設計にも大きな手間が発生することから、大規模な建築物に携わる設計事務所やゼネコンの一級建築士などでは、高収入が期待できるでしょう。
一級建築士というのは難関国家資格のため、すぐさま取得することは難しいですが、キャリアアップを目指される方は将来的な目標として設定すると良いでしょう。
実務経験を積みながら一級建築士の資格取得を目指せば、専門知識や設計スキルを磨きつつ、さらなる年収アップが期待できます。
建築士ってそもそもどんな仕事?
建築士は建物の外観や内装のデザインや建物の安全性を確保するための構造設計、電気、給排水・空調・電気などの設備を効率的に設置するための設備設計をメインで行います。
ここで言う設計とは、建物の構造・設備・内部の間取りデザインなどを、依頼主からの要望を取り入れた上で設計図として図面に起こすことを指します。
また、建物の設計では表面的な見栄えだけでなく、災害や経年劣化への耐久性、実際に利用した場合の利便性などを、建築基準法と照らし合わせつつ、建物の機能面も考慮して進めていく必要があります。
建築士が設計した設計図に従って計画が進んでいくため、自分で設計したものが形になっていく場面を見ながら全体の管理をしていくことができるためやりがいを感じられる仕事です。
建築士にはもう一つ、設計書通り工事が進められているかを確認する、工事監理という重要な業務があります。
工事管理業務は建築士が行うように、『建築基準法第5条の6』によって義務付けられているため、規定にそって工事が進んでいるか確認し、何か間違いがあった場合は設計書通りに施工が行われるよう都度指摘して改善する義務があります。
また、建築士は設計だけでなく、建物が無事設計通り完成するか確認することも仕事であり、一級建築士・二級建築士・木造建築士など資格で定められた設計の範囲や工事監理の範囲が異なります。
一級建築士 | 建築物の規模による制限なく、どのような建築物でも設計・工事監理を行える。 |
二級建築士 | 木造の場合:高さ13m、軒高9m以下、延床面積1000㎡以下、3階建て以下の建築物 RC・鉄骨造の場合:高さ13m、軒高9m以下、延床面積100㎡以下、3階建て以下の建築物。 |
木造建築士 | 木造の延面積300㎡以下、2階建て以下の建築物 |
このように、二級建築士と木造建築士の場合は、携われる建築物に制限が設けられるため、戸建住宅の設計・工事監理に従事することが多い職種です。
特に木造建築士は扱えるのが木造のみとなっているため、多くの企業では一級建築士や二級建築士の方が需要が高い傾向にあります。
一級建築士の年収
一級建築士として働く方全体の平均年収は、550〜650万円前後です。
ただし、一級建築士のように国家資格が求められる仕事は勤務する企業、実務経験や技術力といった影響が強くなる傾向にあります。
また、一級建築士の初任給の目安は28万円前後となっており、一般的な大卒の初任給が20万円前後であることからも高いと言えます。
経験年数に応じたスキルの向上が期待されていることがあり、年齢に比例して平均年収が高くなっていく傾向が高く、20代前半でおよそ390万円、30代前半で約640万円、40代前半で約670万円、40代後半で約800万円に達し、50代からは徐々に右肩下がりとなっていく傾向にあります。
二級建築士の年収
二級建築士として働く方全体で見た平均年収は、350万円〜500万円程度とされています。
二級建築士は、設計を担当できる建物に制限があるため、学校やビルなどを担当することはできません。
設計事務所で働く場合の平均年収はおよそ480万円、ハウスメーカーでは470万円、ゼネコン勤務の場合は約500万円となっています。
二級建築士の年齢ごとの平均年収を調べてみると、20代で約370万円、30代で約480万年、40代で約614万円、50代で約690万円でした。
60代の平均年収は約469万円とが下がりますが、これには60代で定年退職される方がいることも関係していると考えられます。
一級建築士と二級建築士を比較してみると、二級建築士の方が平均年収が低い傾向にあることが分かります。
特に30代以降にその差が顕著となりますが、これは一級建築士は設計・工事監理できる建築物に制限がないことが影響しているようです。
建築業界の平均年収
国税庁が民間給与を調査する『民間給与実態統計調査結果』の令和5年度のデータによると、建設業界の平均年収は546万円でした。
これは全15業種の中で「学術研究・専門・技術サービス業・教育・学習支援業」に次いで、5番目の高さとなっており、全業種の中でも建設業界は平均年収が高水準な業種であることが分かります。
建設業界全体で見た給与額ごとの人数は、男性と女性で差異があり、男性は400〜600万円台がボリュームゾーンとなっており、そこから700万円台から1,500万円台まで給与所得者が広く分布している形になっています。
一方、女性の場合は200〜500万円台の給与所得者が半分以上を占める形となっており、女性よりも男性の給与所得の方が高い傾向にある業界と言えます。
他業種と比較して、建設業界だけ男女格差が大きいわけではなく、今後様々な業界で改善していく必要のある課題だということが分かります。
全職種を踏まえた全国の平均年収
国税庁が公表している令和5年度「民間給与実態統計調査結果」のデータによると、1年を通して働いた日本人の給与所得者1人あたりの平均年収は460万円です。
これを男女で分けると、男性が569万円、女性が316万円となっており、男性のほうが平均年収が高いことが分かります。
上記の平均年収を正社員と正社員以外に分けて比較してみると、正社員は530万円に対し、正社員以外は202万円となります。
また、男女別で比較してみると、正社員は男性が594万円、女性は413万円、正社員以外は男性が269万円、女性が169万円でした。
建築士の全国平均年収とは
本記事でも紹介した通り、一級建築士全体の平均年収は、550〜650万円前後、二級建築士全体の平均年収は、350〜500万円程度と開きがあります。
このように開きがあるのには働く会社の種類や規模によっても平均年収が変動することが関係しています。
建築士が働く会社の種類として一般的なものを以下でご紹介します。
- 設計事務所
- ゼネコン(ゼネラルコントラクター)
- 建設会社
- ハウスメーカー
- 工務店
この中では大手ゼネコンが最も平均年収が高く、800万円程度とも言われています。
大手ハウスメーカーに勤める建築士の場合は、平均年収が700万円程度と考えられます。
会社の規模が小さくなれば上述の平均年収よりも低くなる傾向が強くなると考えられるため、全国の平均年収と比較するだけでなく、会社規模も考慮に入れる必要があります。
年収は年齢にも左右されるため、現在の年収を平均年収と比較する場合には年齢を考慮し、同世代の平均年収と比較することが重要です。
経験を積んでいれば40代の大手ゼネコンでは年収1,000万超え?
建築士は、ゼネコンで技術や経験を積んでいくことで40代のうちに年収1,000万円を超えることも可能な職種です。
大手ゼネコンでは年功序列となっている企業も多く、年齢を重ねていくことで年収もしっかりとアップしていくことが期待できることが多いです。
ただ、大手ゼネコンで大規模プロジェクトに携わろうと考えると一級建築士の資格や設計経験が必須となっていることが多いため、転職を検討されている方は未経験の方では厳しい可能性が高いです。
自営業で活動する建築士の年収はどのくらい?
建築士として仕事をされる方の中には、企業で経験を積んでから独立・自営業として仕事を検討している方もいるのではないでしょうか?
自営業は営業や経理、依頼された仕事など全て自分で行う必要があるため、その分年収が高いです。
企業で働いている場合では、自分の仕事に対する報酬が全て還元される訳ではないですが、自営業であれば仕事量や契約した単価によって自分の収入に変動があります。
自営業であれば仕事量を増やせば、それだけ自分の収入も増えることとなります。
しかし、継続的に仕事を受け続けることは難しく時期によっては案件を受注できず収入が全くない状況も想定しておく必要があります。
企業で働く場合は、月々の給与が保証されていますが、自営業の場合はそうした保証がなく収入が不安定になりやすいという大きなデメリットがあります。
自営業で建築士として働くときに収入を安定させるためには?
先ほど紹介した自営業の収入が不安定になりやすいという欠点をカバーする方法に、専門学校や大学等で講師をするという選択肢があります。
講師として、これまで経験した建築の知識や実務経験をこれからの建築士に教えていくことは、技術の継承になるためやりがいを感じやすく、教育のために不確かな部分の知識を解消する必要があるため自分の成長にも繋がります。
講師として活動することによる魅力もありますが、実務・経験を通じてできるようになったスキルと、それを教えるためのスキルは異なること、講義資料を作成する必要があることなどから講義の準備に時間をかけなければいけません。
建築士としての仕事が多い期間のダブルワークでは、多忙になり大変だと感じる場面も少なくないため、できるだけ年収を増やしたい、生活水準を上げたい、キャリアアップを目指したい!といった方を除いておすすめできません。
建築士の年収は意外と低い?
ここまで建築士の年収について、職種全体や建築業界全体と比較しながらお伝えしてきましたが、この記事をご覧の方の中には建築士の年収が意外と低いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
建築士という括りで年収を語った場合、全体での平均年収を紹介することとなりますが、実際の建築士の年収は、もっと振れ幅の大きなものと考えて良いでしょう。
この記事でも何度か触れている通り、年収の変動には、就職する企業の種類や取得している資格の種類、年齢、技術力など様々な要素が関わっています。
建築士は技術職のため企業の求める経験や技術を積み重ねることで、年収1,000万円を目指すことも可能です。
ここからは建築士の年収をさらに伸ばせる方法について、いくつかご紹介します。
建築士の年収は就職先や資格の有無で変わる?
建築士はゼネコンや設計事務所、ハウスメーカーなど、就職する企業の種類によって、平均年収も変動する職種です。
これには企業の種類によって引き受ける建築物の種類や規模も異なることが影響しています。
例えば、規模の大きな設計事務所やゼネコンであれば、大型施設の設計が多く、大規模なプロジェクトに携わる機会が多く、その分年収も高くなる傾向にあります。
この記事でも紹介しましたが、会社の規模が大きいほど年収も高くなる傾向にあるため、建築士として年収アップを目指したい方は大企業への転職を目指すのが良いでしょう。
加えて、建築士の資格取得にも力を入れることが重要です。
何度もお伝えしてきた通り、建築士の資格は一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類に分けられます。
この内、二級建築士と木造建築士は設計・工事監理で携われる建築物の種類が限られています。
二級建築士・木造建築士の方は、一級建築士を取得し経験を積むことで、建築物の種類によって業務が制限されることなく、大型のプロジェクトにも設計・工事監理として携われます。
一級建築士試験の合格率は令和5年度で合格率が約9.9%と狭き門となっていますが、その分資格取得した場合には企業から求められる人材になれるため、年収にも繋がっていきます。
二級建築士・木造建築士として働くことで経験を積みながら、一級建築士の資格取得を目指せば年収アップも可能です。
大手ゼネコンであれば年収1,000万円も目指せる?!
建築士として大手ゼネコンやスーパーゼネコンなどの大企業に就職・転職すれば、40代頃には平均年収が1,000万円を超えます。
そのため、現在の給与を職種の平均年収と比較して不満を抱えている方は、大手ゼネコンへ建築士として転職することで年収アップが期待できます。
ただし、ゼネコンでは大型の建築物の設計業務が多く、新卒で無ければ一級建築士の資格無しでの就職は難しいでしょう。
これは大手ゼネコンの多くの転職求人では、一級建築士資格所有と、設計業務の経験が必須条件として設定されていることが多いためです。
現在建築士として働かれていて、将来的に大手ゼネコンで仕事をしたいとお考えの方は、設計事務所や建設事務所で経験を積んでからゼネコンへ転職されると良いでしょう。
将来的に建築士としての経験や知識をさらに深めていきたいとお考えの方には、大手ゼネコンへの就職・転職がおすすめです。
建築コンサルタントとして副業で年収アップも狙える?
建築士としての年収向上を目指す場合、大手企業で年齢を重ねて徐々にキャリアアップしていく未来を思い描く方が多いと思います。
しかし、近年は建築コサルタントとして、建築士と同時並行で活躍することで年収アップを狙われる方も増えています。
近年、少子高齢化によって様々な業界で担い手不足が深刻化しています。
建設業界でも働き方改革によって長時間労働が規制されたことなどを理由として、人手不足の状況となっています。
加えて、一級建築士の高齢化も進んでおり、年齢構成によると現在最も多くの割合を占めているのは60台の27%で、次いで50台の25%となっております。
そうなれば、建築に関する深い専門知識を有する人材も自然と不足していくと考えられます。
建築士としての経験や知識を十分に積み、その知識を外部へと伝える役目として建築コンサルタントを兼業すれば、自身の建築士としての新たな価値を提供できるようになります。
現在はコロナ禍によってリモート環境が整備されたこともあり、インターネット上でのコンサルティングへのハードルも低くなっています。
そのため、会社の休日などを中心として数時間程度のコンサルタント業務をリモートで行うことも可能です。
建築士、特に一級建築士は、培ってきた技術や経験を活かして、建築コンサルタントとして年収アップを目指すことも視野に入れ、行動していくと良いでしょう。
まとめ
今回は他の業種や職種と比較しながら、建築士の平均年収についてご紹介してきました。
建築士として働くには一級建築士・二級建築士資格などの国家資格取得が必須となりますが、その分建設業界において需要の高い職種です。
建築士は就職する企業の種類や働き方によっては年収1,000万円以上も不可能ではない職種であり、自身が設計した建築物の完成まで見届けられるためやりがいも感じられます。
現在建築士への転職についてお困りの方は、お気軽に建設ワークスまでご連絡ください。