施工管理とは建設現場において俯瞰的な立場から現場を統括する役割を担っており重要な業務を行っています。
施工管理と聞くと、「大変そう」という印象がある方、一方で「意外と楽なのではないか」など疑問を持たれる方もいるでしょう。
実際の施工管理の業務は予算管理・原価管理などデスク上で行う業務が多く、イメージしていた業務内容と違ったということも多いです。
さらに、施工管理は平均年収が高いことやキャリアアップのための転職をしやすいともされています。
そこで本記事では、実際の施工管理の業務内容や施工管理が比較的働きやすいと言われる理由を詳しく紹介していきます。
施工管理は意外と楽と言われる理由
施工管理の仕事はきついという印象が有る一方、意外と楽という意見も少なくありません。
なぜこのような相反する意見が出てくるのかの理由に迫って行きましょう。
- 上司に監視されない
- 残業規制がかかり始めている
- 給料が良い
上司に監視されない
施工管理が意外と楽と言われる理由として、上司に監視されないということがあります。
施工管理の業務内容としては、建設現場におけるプロジェクトを円滑に進めていくため工期の計画と調整、品質・安全の管理・原価管理を行い、安全管理を行うため現場に行く際は上司が帯同することが少ないです。
企業で働いている人は社内の方との連携をとりながら業務を進めていくために、社内でのコミュニケーションが多くなり必然的に上司による指導を受けることが多くなります。
社内での活動が多いと近くで監視されているという感覚を覚える方もいますが、施工管理の仕事は現場の職人との連携が多々求められるため社外での業務が多くなります。
そのため、上司や社内の人から監視されているという意識を持たず業務に取り組めることができます。
残業規制がかかり始めている
建設業界は長期的に人手不足問題に悩んでおり、長時間労働が常態化していました。
他の業界でも長時間労働が問題視され、働き方改革の見直しのための規則が設けられていましたが、建設業界が抱える人手不足が深刻であったこともあり、一部の働き方改革関連法の適用に猶予期間が設けられていました。
ですが、2024年4月1日から建設業界においても働き方改革法の導入に伴い、国主導で週休二日制の導入や土日休み、残業時間の規制など働きやすい環境づくり・DXの促進が進められています。
そのため、以前に比べて長時間労働が減り、一人一人が抱える業務量の負担軽減、余裕のあるスケジュールで進められ始めました。
そのため建設業界は今後より一層働きやすく変化していくといわれています。
給料が良い
施工管理が意外と楽と言われる理由として、給料の良さもあげられます。
日本全体の平均年収は443万円であるのに対して、施工管理技士の平均年収は620.4万円となっていることからも、日本全体の平均年収に対しておよそ180万円高い水準です。
また、施工管理は国家資格の一つという専門性の他に、現場全体を監督する必要が求められるため責任感が高い仕事です。
日々専門性を高めていけるため年収を高めることが期待できる環境で、生活面での余裕をもたらすことが多いため、施工管理が意外と楽と言われます。
施工管理が楽であるという考えを鵜呑みにするのは危険
施工管理が楽であるといわれていることもありますが、施工管理が楽であると鵜呑みにすることは危険です。
働き方改革の導入に伴い、建設業界の人手不足問題は解消すると予想されています。
「楽である」という文言に惑わされることなく、建設業界や施工管理の実情と課題をしっかりと認識することが、入社後のギャップ、トラブルなどの失敗を避ける重要な鍵となります。
ここでは施工管理において懸念される労働状況について紹介していきます。
【施工管理において懸念される労働状況とは】
- 労働時間が長い
- 責任が重い仕事を任せられる
- 原則出社が求められる
労働時間が長い
施工管理の平均的な残業時間は35〜40時間ほどとされており、週5日勤務で換算すると毎日1.75~2時間ほど残業が発生するイメージです。
施工管理に対してこのように多くの残業時間が発生するのは、タイトなスケジュール管理が求められることや建設業界全般的な人手不足問題が影響しています。
さらに、「資材が予定通り到着しない」といった影響や、台風や大雨などの自然災害による資材搬入の遅れなどによってスケジュールに影響することも考えられます。
あらかじめ決められた工期から延期することは許されないため、想定よりもきついスケジュールになることもあり精神的にも負担を感じます。
建設業界は決算と新年度の関係で9月末や3月末が繁忙期であるとされ、この時期は特に業務が集中し、労働時間が長くなる場合もあります。
責任が重い仕事を任せられる
施工管理技士は、工程・安全・原価・品質管理など幅広い業務を行う必要があり、工事を円滑に進めるために適切な指示を常に出さなければなりません。
品質を保ちながらも指定されている工期に遅れないようにするかどうかは、現場の職人だけではなく、施工管理技士の腕にかかっているとされています。
実際に現場で働いている方の要望・意見や、工期内・予算内で作らなければならないといったことがあり、トラブルが発生した際は施工管理技士が板挟みとなってしまいます。
そのため施工管理技士が精神的にストレスを抱えてしまうことがあります。
原則出社が求められる
施工管理は、実際の現場にて監督・管理する役割を担っています。
そのため、現場の実際の進行状況や問題点を直接目で確認し、即座の判断や指示を出すことが求められます。
さらに、作業員の安全を確保するための現場の安全対策や危険な状態を把握し、対応する必要があります。
このような作業は対面でのコミュニケーションが最も効果的であり、関連業者や作業員との密接な連携や調整が不可欠です。
他にも、使用される材料の品質や完成度を実際に目視で確認する「品質管理」の作業が施工管理にとって重要です。
施工管理で働くメリット
施工管理は建設業界の中核となる職種の一つで、多くのプロジェクトでその専門性が求められています。
施工管理にて働くことには、他の職種にはない数々のメリットが存在しており、給与の面、キャリアアップの可能性、やりがいを感じる瞬間など、魅力的な要素が溢れています。
ここでは施工管理で働くことのメリットに焦点を当て、施工管理の職種を選ぶ際の参考となる情報を紹介していきます。
年収が高い
施工管理技士の平均年収として厚生労働省が発表した建築施工管理技士と土木施工管理技士を例に挙げます。
建築施工管理技士の平均年収は、620.4万円
土木施工管理技士の平均年収は573.2万円でした。
国税庁が発表している日本国民の平均年収は、461万円であることから、施工管理技士は国民の平均より高い位置にいるとされています。
施工管理は、資格がなくても勤務することは可能です。
しかし、キャリアアップを目指す場合は2級施工管理技士、1級施工管理技士と資格を取得し、より高い立場で現場に従事することが求められます。
勤務する企業によって年収を上げることができ、大手建設会社に勤める施工管理者の場合、年収1000万円を超えることも目指せます。
参照:職業情報提供サイトjob tag「建築施工管理技術者-職業詳細」
参照:職業情報提供サイトjob tag「土木施工管理技術者-職業詳細」
参照:国税庁「令和3年分民間給与実態統計調査」
施工管理は需要が高い
施工管理技士は一定の規模を超える工事現場において必ず置く必要がある人材であるため需要が高いですが、建築施工管理技術者の有効求人倍率は5.35倍と高い水準になっています。
さらに、土木施工管理技術者の場合、11.63倍という高い数値が示されており、定量的に人材が不足していることが理解できます。
新たな建物を建築するだけでなく、高速道路や商業施設・マンションなど既にある建物は定期的に修繕を行う必要があることもあり、建築に関わる施工管理技士の需要は今後も高い状態で保たれると考えられます。
他にも、日本は自然災害が多い国であるため、災害が発生するたびに町を復興させたり、インフラを復旧することも必要になります。
施工管理技士の求人は多く存在し、資格を取得して実務を積んでいくことで手に職をつけられることができるため職に困ることがないとされています。
労働時間に上限が設けられる
建設業界は、人材不足、技術者の高齢化によって一人当たりの業務量が増え、労働時間が長くなるという状況が懸念されています。
適用猶予事業・業務以外では2019年、中小企業は2020年から働き方改革が推進されてきました。
これまでの建設業では36協定を結ぶことで時間の上限なく残業させることが可能であり、法定労働時間を超えた残業をさせた場合も罰則が課されることはありませんでした。
そのため建設業界においても労働環境の改善が見込まれるとされています。
参照:厚生労働省「時間外労働の上限規制」
AIに代わる可能性が低い
近年では、AIの台頭によって人類の職をAIに奪われるのではないかと懸念されています。
施工管理では、業務ツールのDX化によって業務の効率化は進んでおり、AIが業務を一部担うことはあるとされます。
しかし、施工管理技士の業務がまるごとAIに奪われることはないでしょう。
施工管理技士は工事現場を主として勤務しており、現場では天候、資材の調達状況、クライアントの要望の変化などあらゆる状況の変化が想定されます。
そのため状況の変化に応じる柔軟な対応をしなければならないからであるといわれています。
やりがいを感じやすい
建設業界は道路、橋、施設などのインフラや建築物を提供することで、地域社会の発展や生活の質の向上に大きく寄与します。
自らが扱った現場が都市のランドマークや生活の一部として人々に利用される様子や地域の活性化を目の当たりにすることができ、達成感を得ることに繋がります。
国家規模のインフラ工事に携わることができればより規模が大きくなり、やりがいを実感しやすくなります。
施工管理の仕事内容
施工管理は、一日中現場に出て技術者や様々な立場の人々の指揮を執っているというイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。
施工管理技士は実際にどのような活動をしているのか、施工管理技士の具体的な一日の流れや役割に焦点を当てて紹介していきます。
施工管理の1日の流れ
7:45 【出勤】
7:50 【現場の清掃】職人さんの仕事に支障をきたさないよう、現場環境を整えます。
8:00 【朝礼】 作業内容や、施工計画について技術者の方と共有し、安全・健康管理についての呼びかけを行います。
9:00 【写真撮影、写真管理】後輩社員に指導しながら施工状況を記録を残す作業を行います。
10:30 【原価管理・発注業務】下請けからの見積もりと設計図書の数量、金額の確認を行ってから最終的な発注をかけます。
12:00 【昼食】
14:00 【工程管理の指導】
15:30 【品質管理】
16:00【測量作業】地面や建物の高さ、角度、距離などを測る作業をペアになって行います。
16:30 【安全管理】工事に使用する機械の安全点検を行い、作業員が安全に使用できる環境に整えます。
天気による異常がないかも確認します。
18:00 【退勤】
施工管理に向いている人
施工管理は、工事工程の進行を適切に管理するためのスキルと資質が求められます。
この業種で実績を上げるためには、一定の特質や能力が必要とされます。
では、具体的に施工管理に向いている人はどのような特性を持っているのか、施工管理に最適な人物像を紹介します。
柔軟な思考を持つ人
施工管理は、工事の進行状況や労働力、材料、機械の配置を計画的に管理する仕事です。
計画に沿って現場は進められますが、天候や材料に問題が発生、クライアントの要望変更など、変更が必要な場合には柔軟に計画を練り直す能力が求められます。
柔軟で臨機応変に対応できる人はこの職種に向いているといえます。
コミュニケーション能力が高い人
施工管理者は、関係者との連携を取りながら工事を進めるため、クライアントや協力業者、作業員など多くの人々とコミュニケーションをとる必要があります。
施工管理を行う現場では、高所での作業や炎天下での作業など危険が伴う現場が多くあります。
そのため作業員の方とコミュニケーションを取り、洩れなく健康や安全に関しての情報を共有することが重要です。
施工管理において、状況を的確に伝えること、相手が話す内容を理解する能力は円滑な現場運営に必要不可欠です。
リーダーシップを持つ人
建設現場は多くの職種やスキルを持つ専門家たちが集まる場所であり、各々の意見や考え方が異なるため、統一された方針の下で効率的に作業を進めるためには、明確な指示と方針が必要です。
現場の方針や計画を適切に伝え、全体で共有するためには、リーダーシップを持った施工管理者の存在が必要不可欠です。
そのため、リーダーシップを発揮できる人は、施工管理の仕事に向いているといえます。
施工管理の中で比較的働きやすい資格とは
施工管理は分野ごとに分かれており、仕事量や労働環境もそれぞれで異なるとされています。
ここでは施工管理の中でも、比較的働きやすいといわれている造園・土木施工管理技士について紹介していきます。
造園施工管理技士
造園施工管理技士と土木施工管理技士を比較すると造園施工管理技士の方が楽であると一般的にいわれています。
その理由としては、造園工事の方がより規模が小さいからであるといわれています。
学校を建てる場合を例に挙げると、造園工事は学校内の植栽箇所のみ工事を行いますが、土木工事は学校の敷地内すべての工事を行います。
工事の範囲が大規模になると、複雑さが増して工期の管理、安全管理の徹底、コスト管理など様々なことに気を配る必要があります。
造園工事のように学校内の植栽箇所のみの工事だと、何十人〜数百人単位のメンバーで作業といった大掛かりになることは少なく、少人数の数日で完了する工事が多いです。
工事の範囲が異なり、業務量も減り、工期のズレなど心配することも少ないため造園施工管理は楽だと言われることがあります。
土木施工管理技士
建築施工管理や電気施工管理と比較すると、土木施工管理は比較的働きやすいと一般的にいわれています。
理由としては他の工事の影響を受けにくく、予定通り進めやすいことが挙げられます。
建設現場では最初に土木関係の工事を行い、その後に建築や電気系の工事へと引き継ぎます。
働きやすい職場とそうでない職場の見分け方
長時間労働、屋外での作業の過酷さ、現場での危険性などから、建設業界は厳しい労働環境であるというイメージを持っている人々がいるといわれています。
そのため、1つの会社で長く、健康的に働くためには「職場を適切に選ぶ」という事が重要になります。
ここでは「働きやすい職場とそうでない職場の見分け方」について紹介していきます。
勤務時間を確認する
求人に書いている労働時間だけではなく、実際の労働時間や残業の頻度、休日出勤の有無などを詳しく聞くことが重要です。
長すぎる労働時間や不規則なシフトは生活の質を低下させる可能性があり、そうした状況は職場のストレスや健康問題を引き起こすリスクが高まってしまいます。
労働時間は生活における大きな部分を占めるため、労働時間は職場の働きやすさを判断する際の重要な指標となります。
他にも、勤務時間外にも対応が求められるかどうかや、現場での不測の事態の発生など、緊急時の対応体制の仕組みを確認することも必要です。
離職率を調べる
建設業界だけではなく、離職率が高い職場は過酷な労働環境や、組織や研修体制に何かしらの問題点があるのではないかといわれています。
そのため、高い離職率は過酷な環境の可能性を示唆します。
教育・研修体制を調べる
新入社員や若手に対する教育や研修がしっかり行われているかを確認することが大切です。
理由としては、研修の内容や方法から
「組織が従業員の成長や教育をどれだけ重視しているのか」
「安全や品質に対する取り組みをどのように行っているのか」について知ることに繋がるからです。
質の高い研修は従業員の成長意欲やモチベーションを高めることに寄与するため、職場の雰囲気や生産性が向上する環境であるという可能性があります。
まとめ
施工管理は、建設プロジェクトの成功を支える非常に重要な役割を果たしています。
施工管理者は状況の変化に常に対応する必要があり、予期せぬ問題や変更要求、天候などの外部要因によって業務量が増えることも少なくありません。
このような状況変化に柔軟に対応し、業務量が増加する場合もあるため、過酷な労働を求められる場合があることが実情としてあります。
それでも施工管理のメリットは大きく、専門性が高いための評価や給与の良さ、工事を完了した時の達成感を得られることなどが挙げられます。
施工管理には様々な種類があるため、ご自身の適性や興味や関心のある仕事と重ね合わせ、将来のキャリアを構築する一助となれば幸いです。