マンションは十数年周期で大規模修繕を行うことで、建物の経年劣化を抑え、長期的に新築時と同様の機能を維持する必要があります。
そんな大規模修繕では、廊下・外壁・屋上までマンション全体の共用部分で修繕が必要となるため、工事期間は半年以上の長期に及ぶこともあります。
大規模修繕を行う上で、特に扱いに注意すべきもののひとつがベランダ(バルコニー)です。
ベランダは住人たちが使用する共用スペースのため、大規模修繕時は工事対象になるのか、迷われる管理者やオーナーの方も多いでしょう。
結論から言えば、ベランダは大規模修繕の工事対象となります。
マンションの大規模修繕ではベランダも含まれる?
マンションの大規模修繕は、ベランダもその工事対象として含まれます。
ベランダは、専有部分の一部だと勘違いされることが多いですが、実際は共用部分の一部です。
専有部分とは、マンションの各部屋内のことを指し、その部屋の所有者のみが使用できる部分を指します。
専有部分は管理規約に定めがない限り、区画所有者の住人が内装を変えたり、ドアや間取りを変更したり、リフォームしたりといったことが認められています。
ベランダは専有部分から繋がってはいますが、ほとんどの場合、共用部分の一部として扱われます。
共用部分は区分所有法によって法定共用部分と規約共用部分の2種類が定められています。
法定共用部分は、廊下や階段、エレベーター、駐車場、エントランスなど共用部分でなければ住人の生活が成り立たない部分が含まれます。
一方、規約共用部分は管理規約で定めることで上記以外の箇所について共用部分として設定したもののことを指します。
庭やベランダはこちらに含まれますが、これは緊急時に使用する非常階段や避難通路を設置するために共用部分への設定が必要不可欠なためです。
マンションのベランダはこのように、通常は共用部分として扱われますが、同時に専用使用部分でもあります。
大規模修繕工事でのバルコニーの工事内容
ここからは大規模修繕で行われるバルコニーの工事内容についてご紹介します。
バルコニーの工事は、シーリングから補修、塗装まで多岐にわたりますので以下で確認しておきましょう。
シーリング工事
シーリング工事とは、外壁とサッシの隙間や、外壁ボードの隙間などをシーリングという樹脂でできたペーストによって埋める工事です。
このシーリングは、最初はペースト状ですが時間経過によってゴム状に固まり、建物の隙間を保護する役目を果たしてくれる素材です。
シーリング工事は、建物の隙間から雨水などが入り込み、建物が劣化していくのを防ぐのが主な目的です。
他には地震や強風、気温の変化などによって外壁が伸縮したりして、ひび割れることを避ける働きもあります。
但し、シーリングは紫外線や気温の変化、経年などによって劣化が生じてしまいます。
そのため、一定期間ごとに新しくシーリング工事を行う必要があるのです。
劣化した状態のまま放置してしまうと、隙間が十分に埋められず、雨水などが入り込んで徐々に建物の内部で劣化が進んでしまう可能性があります。
下地・タイル補修工事
下地・タイル補修工事では、外壁タイルのひびが生じている箇所、浮いている箇所、割れが発生している箇所を修繕します。
定期的に下地・タイル補修を行うことで外壁をなるべく劣化から守り、美しい状態を維持することができます。
外壁タイルの修繕箇所の調査には目視での調査の他、打診棒などの専用器具でタイルを叩き、その音を聞く打診調査、ドローンを使用した赤外線調査といった種類があります。
打診調査や赤外線調査をしっかり行うことで、目視だけで分からないタイルの劣化にも気づくことが可能です。
内外壁・鉄部塗装工事
シーリング工事やタイルの補修工事が終わったら、内外壁と鉄部の塗装を行っていきます。
マンションの外壁の塗装が剥がれた状態で放置していると、コンクリートにひび割れが発生し、そこから雨水が侵入することで建物が劣化してしまうリスクがあります。
そのため、定期的に塗装を行うことによって建物自体を防ぐ必要があります。
そのため、塗装工事期間中は住人がバルコニーを利用できなくなってしまう点に注意が必要です。
マンションの管理組合は事前に塗装工事中のバルコニーの利用禁止について説明し、住人たちの理解を得た上で修繕工事を進める必要があるでしょう。
防水工事
バルコニーは雨水に晒される場所のため、防水が施されています。
バルコニーの床面に防水を行わなければ、雨水が染み込み、階下に雨漏りしてしまったり、建物内部に雨水が染み込んでしまう可能性があります。
その他、苔が発生したりカビの発生原因になったりと、住環境の悪化に繋がります。
そうなると建物自体が劣化してしまうため、防水工事は欠かせません。
防水工事の期間も、塗装工事の期間中と同様、バルコニーへの住人の出入りができなくなるため、事前に了解を得る必要があります。
大規模修繕に向けたバルコニーの準備
大規模修繕では、バルコニーを使用している住人たちに対し、事前準備に協力してもらう必要があります。
ここでは、大規模修繕に向けて行っておくべきバルコニーの準備について解説します。
バルコニーの荷物・植物を撤去する
バルコニーではシーリング工事や塗装工事などを行うため、工事の際に荷物や植物があると、作業員が工事を進められなくなってしまいます。
そのため、住人がバルコニーに置いている荷物や植物は大規模修繕が始まる前に全て片付けてもらう必要があります。
それぞれの家庭で事情があるため、急に荷物や植物の撤去をお願いするのではなく、大規模修繕を行うにあたり、いつまでに撤去して欲しいかを事前に告知しておくようにしましょう。
撤去が必要なものとしては、植物、物置、アンテナ、机、椅子、敷物など、片付けられるもの全てです。
バルコニーの網戸を取り外し保管する
バルコニーの網戸も、作業の邪魔になり、器具がぶつかるなどして工事の際に破損したり汚してしまったりする可能性があるため、取り外す必要があります。
そのため、必ず住人たちに網戸の取り外しをお願いしましょう。
取り外したバルコニーは外に置きっぱなしだと作業の邪魔になるため、住人たちに室内で保管してもらう必要があります。
網戸の保管場所についても、事前に住人たちに対する説明会を開くなどして、しっかりと説明を行い、理解を得ておきましょう。
バルコニーの私物や網戸の撤去はいつまでに行う?
バルコニーにある私物や網戸の撤去は原則、足場の組み立てが完了するまでの間に行っておく必要があります。
足場の組み立てが完了すると、実際に外壁の工事などに入ることとなるため、工事の邪魔になる可能性があります。
そのため、工事が始まる前に撤去を終了させておきましょう。
工事が始まるまでに撤去を完了させるためには、住人たちへの告知時期が重要となります。
大規模修繕でバルコニーの使用が制限される期間
大規模修繕でバルコニーの使用が制限される期間は、およそ1〜2週間程度となることが多いです。
この期間中は夜間であっても住人はバルコニーを使用できなくなります。
バルコニーで洗濯物を干すこともできないため、住人たちの生活にストレスを強いることとなります。
そのため、不便をおかけすることに対しても告知を行っておき、住人たちの理解を得られるよう心がけましょう。
バルコニー大規模修繕の注意点
ここからはバルコニーの大規模修繕に関して注意点をご紹介します。
バルコニーの荷物の撤去や処分は住人の自費で行うこととなる上、住人がバルコニーの修繕を拒否することはできません。
荷物の撤去・処分は自費で行う
これはバルコニーが共用部分でありながら専用使用部分であることが関係しています。
専用使用部分は、普段は区分所有者である住人のみが使用できるため、荷物などは全て住人が管理するものとされているのです。
マンションの管理者やオーナーは、住人たちにその点を事前に伝達しておかなければ、荷物の撤去費用の負担を巡ってトラブルに発展してしまう可能性があります。
また、バルコニーは共用部分であり、緊急時などに移動を妨げるようなものは置いてはいけないとされています。
バルコニーに置いて良いものに関しては、管理規約で明確に規定しておくと、後からトラブルになる可能性をできるだけ低く出来ます。
バルコニーの大規模修繕は拒否できない
マンションの住人の中には、プライバシーや荷物の撤去を行いたくないなどの理由で、バルコニーの大規模修繕をしたくないと思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかしこの記事でも申し上げてきた通り、バルコニーは共用部分のため管理組合に管理責任があり、修繕を行う義務があります。
そのため、住人がバルコニーの修繕を拒否することはできません。
バルコニーの大規模修繕の拒否によってトラブルに発展することを避けるためには、住人たちに対して事前に修繕の拒否が行えない理由や、建物の維持管理のためにも協力してもらいたい旨を丁寧に説明しておくことが重要です。
バルコニーの荷物は片付けが必要?
バルコニーの荷物の中には、片付けが必要かどうか迷うようなものもいくつかあります。
例えば、エアコンの室外機やガス給湯器などです。
これらについて、住人は片付けが必要かどうかを個別に解説していきます。
エアコンの室外機
バルコニーには、ほとんどの場合、エアコンの室外機が設置されています。
エアコンの室外機はホースによって繋がれており、撤去が難しい場合がほとんどです。
そのため、室外機に関しては工事業者が作業を行う際に場所をずらしたり、ビニールで保護したりして、設置したまま工事するのが一般的となっています。
住人たちとの間でトラブルが発生することを回避するためにも、エアコンの室外機の扱いについては、事前に住人たちに周知しておき、理解を得ておきましょう。
ただし、エアコンの室外機を撤去しない場合でも、塗装時など工事内容によってはエアコンの使用が制限される時期が発生する可能性はあります。
ガス給湯器
バルコニーを修繕する際、ガス給湯器も撤去しなくて構いません。
ガス給湯器は業者でなければ撤去が難しいだけでなく、給湯器を撤去してしまうと工事の期間中はお湯が出なくなり、住人たちの生活に支障が出てしまいます。
そのため、ガス給湯器に関しては設置したまま工事が行われます。
オール電化マンションのヒートアップ給湯器と貯湯槽
オール電化マンションでは、バルコニーにヒートポンプ給湯器と貯湯槽がある場合もあります。
しかし、これらも設備の撤去が難しいことから、基本的に設置したまま工事が行われます。
オール電化マンションの場合は、バルコニーに給湯器と貯湯槽があるか事前に確認しておくと良いでしょう。
物干し竿
物干し竿はマンションの備え付けのものに関しては設置したままで良いとされています。
マンション備え付けの物干し竿は業者が撤去してくれるため、住人が自分で撤去する必要はありません。
しかし、住人が自分で購入して新たに設置した物干し竿については撤去が必要となります。
住人たちには事前にその旨を周知しておき、物干し竿を巡るトラブルを回避できるようにしておきましょう。
片付けたものはどこで保管する?
片付けたものは基本的に住人たちが保管する必要があります。
しかし、中には保管場所がなくて困る住人もいるかもしれません。
そのような場合には、対処法として親族の家で一時的に保管してもらったり、倉庫を一定期間レンタルしたりといった方法が考えられます。
事前に住人たちに保管方法を教えて、各自で場所を用意してもらうことも必要となるかもしれません。
マンションによっては、住人たちのために一時保管スペースを用意する場合もあります。
もし住人たちから荷物が室内に置けなくて困っているなどの相談があった場合には、管理組合で一時保管スペースの用意を検討してみるという方法もあります。
バルコニーの荷物撤去を依頼するうえで、保管方法についても早めに告知しておき、住人たちの協力を促す必要があります。
まとめ
今回は大規模修繕で行われる、ベランダ(バルコニー)の工事について詳しく解説してきました。
ベランダは共用部分のため、住人個人の判断ではなく、管理組合で責任を持って修繕を行う必要があります。
しかし、普段は住人たちが使うスペースのため、なるべく早めに荷物の撤去などについての告知を行っておきましょう。
そうすることで、トラブル無く大規模修繕工事を終えられるでしょう。