施工管理の仕事は、建築プロジェクトにおいて極めて重要な役割を担います。主に「工程管理」「原価管理」「品質管理」「安全管理」という四大管理を行う役割を担っています。
施工管理の仕事は高度な専門知識と経験を必要とするため、人材としての希少価値が高いです。建設業界全体に見られる3K(きつい、汚い、危険)のイメージが一因となり、新しい人材の参入が減少しています。
このため、施工管理技士としての役割はますます重要になっており、現在は深刻な人手不足の状態に直面しています。この背景から、施工管理は今後もその価値を高めていくことが予想されます。
施工管理の給与は本当に高い?
施工管理技士の給与平均
そもそも施工管理技士の給与相場が本当に他の業界と比べて高いのかについて見ていきましょう。
施工管理技士の平均年収は全年齢で620.4万円となっており、平均値でみると、日本全国の平均年収は443万円となっております。施工管理技士の平均年収は日本の全国平均と比べると177万円ほど高いです。
一方で施工管理技士全員が他の職種と比べて給与が高いかというと、必ずしもそういう訳ではありません。
施工管理技士の時間外手当を除いた所定内給与月額の分布図を見てみると、最もボリュームが多かったのは、月給40~44.9万円の方が最も数としては多いようです。
一方で、20万円前後の方も10%以上の方が該当している状況で、一概に施工管理技士になれば、全員給料が高いという訳ではありません。
年代別に比較をしても、施工管理技士の平均年収は高い水準に
年齢による分布も見てみましょう。
年代別で、平均年収と比較してみても施工管理技士の年収は平均値と比べて高いです。2019年に国税庁が発表した、「令和3年分民間給与実態統計調査」を参考に各年代ごとで比較をしてみます。
年代 | 全国の平均年収 | 施工管理技士の平均年収 | |
20代 | 前半 | 264万円 | 360万円 |
後半 | 369万円 | 479万円 | |
30代 | 前半 | 413万円 | 599万円 |
後半 | 449万円 | 676万円 | |
40代 | 前半 | 480万円 | 710万円 |
後半 | 504万円 | 726万円 |
このように各年代において、施工管理技士の平均年収は全国の平均値と比較するとそれぞれ100万円ずつ高い水準となっており、相対的に見て施工管理技士の給料は高いというのはデータで見ても間違いないといえるでしょう。
年収のピークは50代に来る方が多く、ピーク時の年収は777.5万円という水準となっております。
給与が高い理由
専門性が高いから
施工管理技士としての仕事は、高度な技術や知識を必要とします。プロジェクトが計画通り、かつ安全に進行するためには、四大管理と呼ばれる「工程管理」「原価管理」「品質管理」「安全管理」の専門的なスキルと知識が欠かせません。
また、現場での施工管理を経験すればするほど、抑えるべきポイントや、トラブルが発生するリスクが高い箇所に対する勘が徐々に冴えてきます。
実践の経験を多数積むことで、設計図への理解や工程表作成能力の向上させることが出来ます。
また、作業員との関係構築や発注元との関係構築を通して、人脈を活用して円滑に工程を進める為のプロジェクトチームの組成能力も高まっていきます。
このように技術や知識はもちろんの事、業界内のネットワークまで持ち合わせていくことによってより専門性を高め、給与を上げていくことが出来ます。
人手不足が深刻だから
現在、建設業界はいくつかの要因から深刻な人手不足に直面しています。技術者の高齢化により、経験豊富な施工管理技士が引退を迎える中、若手の専門家が不足しており、その希少性が一層市場価値を高めています。
その一方で、バブル期に建てられた多数のビルの老朽化に伴い、メンテナンスやリニューアルのニーズが増加しています。さらに、2025年の大阪万博やリニア中央新幹線の建設などの大型プロジェクトが進行中で、その結果として施工管理技士の需要が一段と高まっています。
このような背景から、企業は質の高い施工管理技士を確保するための競争が激化しています。
人件費を十分に高めることの出来ない企業は競争力を失い、新規案件を受注することが出来ず、倒産を免れることは出来ません。
このような背景からもスキルと経験を持つ施工管理技士の賃金は高い傾向にあります。
国も建設業界の待遇改善に着手しているから
建設業界は人手不足業界で有る一方、国のインフラを支える上で欠かすことの出来ない産業です。
建設業界の健全な成長と労働環境の向上のため、行政は積極的に介入しています。
先日、国土交通省は建設業の賃金に関する労務費の目安を設定する方針を打ち出しました。
具体的には、建設業における各職種別に標準的な労務費を示し、下請け企業に対して不当に低い単価を設定するゼネコン等に対して、国が行政指導を実施する仕組みを検討しています。
この取り組みは、建設業者の受注単価を高め、施工管理技士や、下請け企業の作業員側の受取分の改善に繋がっていくでしょう。
労働時間が長いから
施工管理技士は、プロジェクトの進行度に応じて、頻繁に長時間労働を要求されるものです。
繁忙期や特定のプロジェクトフェーズでは、夜過ぎの残業や休日出勤が求められることも少なくありません。この長時間労働を補うため、給与や残業代が適切に評価され、高められています。
施工管理技士は、一人当たりの業務量が多いことも特徴です。プロジェクトの規模や進行状況によっては、複数の業務を同時にこなす必要が出てくる場合も。この高い責任と業務量が、給与のベースを高く保つ一因となっています。
施工管理技士の業務は、場所や環境によっては過酷なものとなり得ます。真夏の炎天下や真冬の厳寒、さらには場所が頻繁に変わる現場作業など、身体的・精神的な負担が大きいことがしばしば。
このような厳しい環境での作業を補償する形で、施工管理技士の給与が高く設定されているのです。
給与を上げる為にやるべきこと
資格を取る
施工管理技士として給料を上げるために出来ることの中で、最も有効な方法は資格を取得することです。資格を持つことで、専門性やスキルセットが認知されるとともに、キャリアの幅も広がります。
特に、施工管理の資格を持つことで、主任技術者や監理技術者といった建設現場を統括する役割を担うことができるようになります。これらの役職は、現場での判断力や管理能力が求められるため、資格を持つことでその能力が証明されます。
有資格者が在籍することで、企業は多くのプロジェクトや入札に参加でき、その結果として売上向上に寄与します。そのため、企業は有資格者を積極的に優遇し、キャリアアップの機会や高給与を提供する傾向があります。
施工管理技士の国家資格は工種ごとに分かれています。具体的には、建築、土木、電気工事、管工事、造園工事、建設機械、電気通信の7種類が存在します。
それぞれの資格には、異なる知識や技能が要求され、給与相場も異なります。
このように、資格ごとの給与相場には差がありますが、どの資格を持っていても、非有資格者に比べて給与が高い傾向にあります。
また、複数の資格を取得することで、さらに幅広い業務に対応できるようになり、その結果として給与も上昇する可能性が高まります。
企業の人事は有資格者を何人採用出来るかを目標に置いて活動している会社も多く、資格を持っているだけで、転職市場における交渉力は大きく高まります。
スキルを上げる
施工管理技士として成功を収めるためには、目に見える資格以外にも、多岐にわたるスキルの向上が求められます。
施工管理の現場は、では様々な障壁や問題が生じることが日常茶飯事です。そんな状況下で円滑に施工を進めるためのスキルの向上は不可欠です。
施工管理技士として、昇進していく上で最も重要なスキルの一つが、職人とのコミュニケーション能力です。現場の職人との良好な関係は、施工計画をスムーズに実行するための基盤となります。
彼らとの信頼関係を築くことで、細かな調整や変更も迅速に対応することが可能となります。
逆に職人との信頼関係を構築出来ないと、職人が仕事を受けてくれないケースもあり、発注者にも迷惑が掛かってしまう事があり、コミュニケーション能力は施工管理技士に欠かすことの出来ないスキルです。
さらに、リスク管理能力も必要不可欠です。工期の遅延や安全上の問題など、さまざまなリスクが潜在しています。
これらのリスクを事前に見越して、適切な対策を講じる能力や、発注者との事前の交渉、期待値を適切にコントロールするスキルは、大きなトラブルを未然に防ぐスキルとなります。
資格取得時にも求められるスキルですが、設計書の解読能力や施工に関する専門知識も施工管理技士に欠かすことの出来ない能力です。
設計書を正確に読み取り、その内容を現場で的確に落とし込む為の知識や技術は、品質の高い施工を実現するための基礎となります。
自分自身の市場価値を理解する
施工管理技士としてキャリアを進める際に重要なのは、自身の市場価値を正確に把握し、それに基づいて適切なキャリアプランを策定することです。
資格を保有している場合は、自身が保有している資格に応じての転職可能な会社の給与相場をリサーチすることが重要です。求人サイトで保有している資格を入力する事で、求人の例を見ることが出来ます。
資格を保有していない、もしくは未経験の方は、施工管理の年収相場を知ることから始めると良いでしょう。
一方で、求人サイトの情報はあくまで入り口の情報でしか無いため、実際により深く転職市場の状況を理解するには、転職エージェントや、実際に企業の人事や中で働いている人にも相談してとよりリアリティのある情報を得ることが出来ます。
転職エージェントは、ウェブ上の求人情報だけでなく、非公開求人も多数取り扱っています。
新規プロジェクトや特定のクライアント向けの求人は、公に募集をかけず、非公開での取り扱いとなることが多いため、転職エージェントを通じてこれらの情報にアクセスすることができます。
転職時の交渉力を身につける
転職のタイミングは、キャリアアップの絶好のチャンスです。特に、専門的なスキルや経験を持つ施工管理技士を持っていて、多くの企業からオファーがもらえる場合、強い交渉力が持てる状況になります。
実際、複数のオファーがある状況は、企業側から見てもその応募者の市場価値が高いと判断されるため、給与や待遇の面での有利な条件を引き出しやすくなります。
一方で、注意が必要なのは、能力や経験を過大に伝えること。これは入社後、期待されるパフォーマンスに対応できなくなるリスクが高まるためです。
また、スキルや経験が不足しているにも関わらず頻繁に転職を繰り返すと、企業側から「定着しづらい人材」とのレッテルが貼られる恐れも。
転職を検討する前に、一定の成果を出し、その上で次のステージを目指すことをおすすめします。
信頼出来る転職エージェントと相談することによって、ご自身をどのようにPRするべきか、どのような会社に応募することで給与水準を高めていくことが出来るかについても相談することが出来ます。
給与を上げる為の交渉術を学ぶことも施工管理技士として給料を上げる為の重要なプロセスの一つとなります。
給与が高い会社の特徴
施工管理の仕事は、建設プロジェクトの進行を監督し、品質、安全性、コストを管理する重要な役割を果たしています。このような責任の重さと、専門的なスキルや経験が求められるため、給料が高くなる傾向があります。
特に、大手の建設会社やゼネコンでは、プロジェクトの規模や予算が大きいため、施工管理者に対する報酬も高額になることが多いです。
一方、ゼネコン以外にも、サブコンと呼ばれる工種特化型の施工管理会社や建設派遣会社、中小建設会社も存在します。
これらの会社では、給料の水準はゼネコンよりも低いことが一般的ですが、経験やスキルに応じて高給を得ることも可能です。ここからはそれぞれの属性の会社別の給料のイメージを膨らませていきましょう。
最も給料が高い建設会社はゼネコン
「年収が高い建設会社ランキング2022」によれば、1位は鹿島建設で年収1128万円、3位は大林組で1025万円、5位は清水建設で997万円となっています。
これらのゼネコンは、国内外の大規模なプロジェクトを数多く手掛けており、その実績と信頼性が高給の背景にあると言えます。また、これらの会社では、従業員の教育や研修にも力を入れており、スキルアップを促進する環境が整っています。
しかし、ゼネコンへの入社は狭き門であり、新卒での入社や、中途での入社の場合は他の会社での実績を積む必要があります。
隠れた高所得企業も多数存在
施工管理の業界において、大手ゼネコンや有名な建設会社が注目されることが多いですが、実は隠れた優良企業が存在する業種もあります。これらの業種は、一般的にはあまり知られていないものの、選択肢として考慮する価値があります。
社会インフラの補修・補強に特化した企業
ショーボンドホールディングス株式会社のように、のように、社会インフラの補修・補強に特化している企業は、現在の日本の建造物の多くが高度経済成長期に造られ、老朽化が進んでいるため、補修・補強の需要が増加しています。これに伴い、特定の技術やノウハウを持つ企業は、高い利益率を実現することが可能です。特に、災害への備えや環境保全の観点から、新しい建物を建設するよりも、既存の建物を補修・補強する方がコスト効率が良いとの認識が広がっており、この分野の企業は今後も注目されるでしょう。
設備工事会社
例えば、施工管理の年収ランキング2位にランクインしている、株式会社大気社のような設備工事会社も、空調、塗装、衛生設備の設計・監理・施工を行っており、特に自動車塗装設備は国内首位、世界で2位というシェアを誇っています。また、海外展開を積極的に行っており、海外売上比率が高いことも特徴です。
再生可能エネルギー関連の企業
太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの普及が進む中、これらの設備の建設やメンテナンスを行う企業は増加傾向にあります。
これらの業種は、施工管理の専門性や経験を高く評価する傾向があり、給料も高くなりやすいです。キャリアを考える際には、これらの隠れた優良企業をチェックしてみると、新しいチャンスを見つけることができるでしょう。
建設派遣会社でスキルを伸ばしながらキャリアアップも可能
建設業界における派遣の現場監督は、一見不安定なイメージがあるかもしれませんが、実際には多くのメリットがあります。特に、残業代がしっかりと支給されるため、月収50万円を超える現場監督も少なくありません。
ゼネコンの現場に派遣される場合、時給がさらに高くなることが多く、経験豊富な監督は年収1000万円以上を稼ぐことも可能です。また、施工管理技士という資格を持っていると、時給が上がりやすくなります。
派遣の現場監督は、技術者派遣として正社員として雇用されることが多く、安定した収入を得ることができます。業界全体で現場監督の不足が指摘されており、今後も派遣の現場監督の需要は増えると予想されます。
派遣会社を選ぶ際のポイントとして、研修制度の充実度をチェックすることがおすすめです。研修がしっかりと行われている派遣会社は、現場でのスキルアップをサポートしてくれるため、キャリアアップを目指す方には特におすすめです。
まとめ
ここまで施工管理の給料の相場感や、給料が高い理由、給料を上げる為にやるべきことについて解説してきました。
ご自身のライフスタイルの中で、給料を上げることに重きを置く場合、施工管理の仕事は魅力的な職種の一つといえるでしょう。