建築施工管理技士は鉄筋工事・大工工事の他に内装仕上げ工事など建築工事の施工計画を作成する建築に特化した施工管理です。
建設業法27条に基づく国家試験であり、安全面・工期などを含め幅広い知識・経験が求められます。
国家資格であることに加え、建設業界全体的に人材不足で悩んでいるため、高い年収オファーを期待できるため、建築施工管理技士として働くことに興味を持っている人もいるはずです。
しかし、仕事として始める前にどういった仕事内容なのか確認しておかないと想像していた内容と違った!とがっかりしてしまうこともあります。
建築施工管理技士の仕事内容とは
建築施工管理技士の仕事内容は専門性が高く、建設プロジェクトを成功させるための重要な業務を担っています。
建物の施工期間だけではなく、建設プロジェクトの初期段階と建物の保守・管理にも関わりを持つため、社会的な責任も大きい仕事です。
主な仕事内容は施工管理の五大要素といわれる「品質管理」「原価管理」「工期管理」「安全管理」「環境管理」の5つの要素を管理しながら建物を構築していきます。
上記3つの能力が高いほど、建築施工管理技士の仕事は円滑かつ正確に進めることができます。
必要な資格を取得することで、より責任の大きな仕事を任されるようになります。
実際、1級建築施工管理技士を取得し、監理技術者の立場での業務経験が長い方は建設業界の人手不足も相まって、市場価値が高く評価される傾向があるために、収入に反映されやすい情勢となっています。
仕事内容は五大要素の管理だけではなく、多岐にわたります。
建物の施工期間を通して忙しい日々が続いていきますが、基本的な仕事の流れや方法は変化が少なく、経験年数を重ねることで先を見越した仕事の進め方を覚えると、効率よく業務をこなすことができるようになります。
建築施工管理技士として一流の仕事をするには、「マネジメント能力の向上」「施工技術の向上」「図面チェック能力の向上」「VE※1(Value Engineering:バリューエンジニアリング)・CD※2(Cost Down:コストダウン)の提案による利益改善」が必須となります。
いずれの能力も一朝一夕で身につく技術ではなく、少なくとも10年から15年ほどの業務経験により得られる難易度の高い仕事内容となります。
※1(Value Engineering:バリューエンジニアリング):製品のサービスや価値を損ねることなく、コストの削減を実現させること
※2(Cost Down:コストダウン):材料や設計などを工夫することにより価格をさらに安くすること
主な仕事内容
建築施工管理技士の主な仕事内容は5つの要素を管理することです。
QCDSEと称されており「Q:Quality(品質)」「C:Cost(原価)」「D:Delivery(工期)」「S:Safety(安全)」「E:Environment(環境)」の5つの要素の頭文字をとった言葉です。
その他にも建築基準法や建設業法、消防法、地方自治体ごとの条例といった建築に関する多くの法令を遵守する必要があることから、総じて難易度が高い仕事内容となります。
品質管理
建築施工管理技士の技術的な仕事内容として品質管理を行います。
設計図を読み解き、その仕様・寸法・ディティールを正確に建築物へ反映させるとともに、国土交通省より発刊されている公共建築工事標準仕様書や日本建築学会の発刊されている建築工事標準仕様書(通称JASS)に準拠した建物を構築することが求められます。
竣工後、建物が稼働してから生じるトラブルを防止するために、各工事標準仕様書などに詳細がない範囲の施工についてはゼネコン各社が培ったノウハウを取りまとめた施工規準などを参考とし、設計者や発注者からの了承を得た上で施工を行います。
重大なトラブルとなる可能性が高いものは基礎や構造躯体の欠損、漏水、騒音、結露、外装仕上げ材の剥離、空調衛生設備や電気設備などの不良があり、施工者責任を問われる訴訟へと発展するケースもあります。
原価管理
建設プロジェクトの発注者である施主とは、工事請負契約を締結します。
そこで定められた工事請負金額の範囲で下請契約をする専門工事会社への支払いや、自社の人件費の支出を行い、残った金額から利益を確保する業態となります。
このような仕事は主に作業所長といわれる建設現場の責任者が業務を担当し、部下は作業所長の計画した予算を把握した上で工事を進捗する必要があります。
工期管理
施主との契約により、工期が厳格に定められていることから工期管理は仕事内容の中でも重要度が高くなります。
契約工期内に建物を引き渡すことができなければ、契約違反として施主から賠償金を請求される事態に繋がってしまいます。
想定より長い期間の工事を行うことで人件費などの支出も本来の計画より余計にかかるために、清算後に赤字となってしまうだけではなく社会的信用を損なうリスクがあります。
工期管理は工程表を作成して行い、㎡や㎥やtonなどの施工数量と工事内容ごとに標準とする歩掛(ぶがかり)を根拠として実働日数を定めます。
建設現場では多くの専門工事会社が施工を担当することから、工種ごとの関連性などを考慮するなどの細やかな調整も技術として必要になります。
工法や施工順序の決定についても比較検討を行い、より効率的で費用が少なくなる最適な工程表を作り上げて工期管理を行います。
安全管理
建設現場では多くの専門工事会社が建設敷地内で仕事を行います。
このように同じ場所で違う会社の労働者が混在して業務を行う場合には、元請会社は特定元方事業者(建設業と造船業が該当)として統括管理をすることが法令で定められています。
建築施工管理技士は労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則などの、労働者の安全を守るための法令を遵守した仕事が行われているかを監督・指導し管理します。
その他には現地で安全な施工を行うために、手摺や墜落制止用器具を使うための設備を計画、提供し管理を行います。
専門工事会社の施工方法や作業手順についても、技術的な指導を行い、災害の発生が抑制された安全な状態で施工を行えるように専門工事会社と綿密な打合せを行います。
環境管理
環境管理では、産業廃棄物処理法・大気汚染防止法・土壌汚染防止法などの法令を遵守して工事を進めていくことが求められます。
ここ数年では二酸化炭素や廃棄物量の削減を実現するための施策を各ゼネコン会社やメーカーが取り組んでいる状況です。
脱炭素などの環境配慮の取り組みは工事を発注する施主側からの要望に盛り込まれているケースが増えてきているため、建築施工管理技士の立場としても新しい技術を取り入れながら施工を行う必要性が出てきています。
求められるスキル
建築施工管理技士の仕事はコミュニケーション能力・決断力・生活習慣への適応力の3つのスキル・能力が求められます。
この3つの能力が備わっている方は建築施工管理技士の仕事に適正があるといえます。
コミュニケーション能力
建築施工管理技士の仕事には工事を円滑に進める役割があります。
そのためには建設プロジェクトに携わる多くの関係者とコミュニケーションを図る必要があり、施主・設計者・専門工事会社・作業員・近隣住民・行政などが主な関係者となります。
関係者はそれぞれ違う立場から発言をするため、法的根拠や契約内容、ときには人付き合いの中で前向きな提案をしていかなければなりません。
コミュニケーション能力に長けている場合、トラブル自体が減少するだけではなく、交渉にかかる時間も削減され、他の業務に時間を割くことができるようになり、より効率的に仕事を進めることができます。
決断力
建築施工管理技士は工事期間中に多くの決断をします。
工期は厳格に定められており、工事現場は常に動き続けていきますので、決断へのスピード感が求められます。
管理・監督する立場で仕事をするため、答えが出せない状況が続いたり、曖昧な返答をしてしまうと現場で働く作業員の手が止まってしまうことになり、結果として工期管理に悪影響がでてしまいます。
生活習慣への適応力
建設現場では朝8時を始業時刻としていることが多く、場合によって夜勤の仕事もあります。
一般的な会社勤めの方と比べると早朝からの出勤や不規則な生活環境に身を置くことになるため、生活習慣への適応力が必要となってくるわけです。
必要な資格
建築施工管理技士には1級と2級の資格区分があります。
現場監督として建設現場で仕事をすること自体には必要な資格はなく、誰でも仕事に従事することができますが、監理技術者として建設現場に専任するための登録を行う場合には1級建築施工管理技士か1級建築士の資格が必要です。
元請負の特定建設業者は発注者との下請契約の請負代金総額が4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)になる場合にあっては当該工事現場に専任で監理技術者を配置することが建設業法では定められいることが理由となります。
1級建築施工管理技士
1級施工管理技士は建築施工の管理能力を証明する国家資格です。
この資格を受検するためには最短でも3年の実務経験が必要で、一次検定と二次検定を通してみると、合格率は3割から4割程度となります。
建設現場の施工管理について必要な能力・知識を有していることを証明する資格となりますので、転職する際にアピールポイントにもなる資格となります。
1級建築士
一級建築士は建築設計において、一定の規模以上の建物を設計するのに必要な国家資格です。
建築設計という独占業務に従事するために必要な資格となります。
施工管理との関連性はあまりないと思われがちですが、施工管理を行う上では設計図の読み込みが重要であることから、設計者と同じ目線で図面の妥当性を確認したり、問題点の指摘ができる人材は業界内でも重宝されています。
業務の流れ
建築施工管理技士の業務は「QCDSE」を主軸とした建設現場の施工管理を仕事内容としています。
建物の施工期間にだけ役割を持つわけではなく、設計段階からプロジェクトに参画し、施工の専門家として発言を求められるケースもあります。
建設現場では毎月の行事として、安全設備の総点検や安全啓蒙活動を実施します。
工事関係者との繋がりとしては施主や設計者との定例会議などに出席し、施工の進捗状況や課題の情報共有を行います。
日々の仕事としては、朝礼から始まり施工時の品質チェックや出来形の確認、翌日工事の手配、進捗の把握などを行います。
プロジェクト全体の流れ
建設工事のプロジェクトは企画設計、基本設計、実施設計、施工、稼働、改修・更新と長いスパンで仕事をします。
施工そのものは工事請負契約で締結した範囲で業務を進めるわけですが、企画設計や基本設計のフェーズにおいても建築施工管理技士が参画するケースがあります。
工法の選定や施工計画の早期立案、メンテナンスに関する施工上のアドバイスなどの様々な視点から発言をし、プロジェクト全体のコストについても技術的な工夫により低減できるかを検討することもあります。
1ケ月の流れ
建築施工管理技士は建設現場の健全な運営のために様々な活動を行います。
月初めなどに行う安全意識の向上を目的とした「安全大会」、工事の進捗を明確にするための工程管理、工事の進捗に合わせた出来高の検収や請求書の処理なども施工管理のチーム内で分担して業務にあたります。
月に1回程度の頻度で「定例会議」を行います。
施主や監理者にむけて工事の進捗を説明したり、解決すべき問題を洗い出すなどして関係者全員と共通認識のできる環境を作り出しています。
1日の流れ
建築施工管理技士は建設現場内の役職や担当によって多少の差はあるものの、一般的な始業は8時の朝礼からとなり、日中は施工現場の目視確認や進捗記録として品質検査や施工状況写真の撮影などを行います。
13時には翌日の作業について各専門工事会社と集団で打合せを行い、詳細については担当者が個々にすり合わせを行うということを日々繰り返しています。
17時に終業してからは日中で処理しきれなかった書類や、制作図面や施工図面の確認を行うため、工事請負金額が1億円程度の作業所の場合では施工ボリュームは少ないものの、多くの業務を1人から2人程度でこなすことになるため残業が多くなりやすい傾向になります。
10億円を超えるような規模の大きな作業所では、施工ボリュームや検討すべき内容が多くなるため4人から5人の施工チームを編成し、業務を分担して処理をしていきます。
100億円規模の超大規模現場では、五大要素それぞれに責任者を配置し運営をするためチーム全体では20人から30人という規模で施工管理を行います。
【施工管理技士の一日の流れ】
07:30 事務所到着、朝礼準備
08:00 始業・朝礼
09:00 安全点検
10:00 事務所にてデスクワーク
11:00 元請スタッフ同士の打合せ
12:00 昼食
13:00 専門工事会社との打合せ
14:00 翌日作業の段取り確認、手配
15:00 施工計画などの会議・新規入場する専門工事会社との打合せ
16:00 当日の進捗確認
17:00 終業(以降の時間で図面の確認や請求書や安全関連書類の処理を行う)
ステップアップを目指すには
建築施工管理技士としてステップアップを目指すためには、現場を運営するノウハウだけでなく1人の技術者として施工に携われるようになる必要があります。
最初は担当者として限られた工種のみの仕事を経験し、5年程度の経験年数では1億円ほどの小規模な建設現場の主任として施工管理を任されます。
16から20年の経験年数になると、作業所長として建設現場の全体を指揮する役割を担うことになります。
作業所長クラスの仕事を行うにあたり、「マネジメント能力」「施工技術」「図面チェック」「VE・CDの提案による利益改善」といった4つ能力を身に着け、向上させることで市場価値の高い建築施工管理技士として活躍することができます。
マネジメント能力の向上
多くの専門工事会社が同じ場所で働く施工現場では、スケジュールの調整や納品物の種類が多くなることから、全体管理が複雑化します。
さらには建設プロジェクトには施主、発注者などの関係者も工事に関与するために、対外的な対応も必要となります。
そのため全体把握と適切な指示、適切な人員配置による組織づくりといったマネジメント能力は必ず必要になります。
この能力は建築施工管理技士の仕事における根幹であるため、OJTや自己啓発によって高めるべき能力となります。
施工技術の向上
施工技術は品質管理や工程管理に大きな影響を与えます。
間接的ではありますが原価との関連性もありますので、構築する建物に適した技術で効率よく施工を行えるかを判断し、安全かつ品質の担保された工事を主導できる施工技術が必要となります。
図面チェック能力の向上
品質管理の側面もある図面チェック能力は、竣工後のトラブルを事前に回避するために細かな収まりを検討し、施工が適切に進められる形を図面に表現する必要があります。
設計図だけでは表現しきれない範囲は施工図として改めて図面に起こし、専門工事会社が正しく読み取れる状態を作り出す必要があります。
図面チェックの精度が悪い場合は、品質事故に繋がるだけではなく工種ごとの取り合い部分との整合性が欠如するために制作物を再度発注しなおすことにも繋がります。
その場合には原価や工期への影響も大きく生じるため、正確な図面チェックを行える能力が必要となります。
VE・CD提案による利益改善
日本語で「価値工学」と訳されるVE(Value Engineering:バリューエンジニアリング)は施主や設計者への提案として施工者である建築施工管理技士が主体的に取り組みます。
VEで要求されることは製品のサービスや価値を損ねることなく、コストの削減を実現させることになりますので、技術的な知見が必要となります。
VEがもたらすことは、予定より工事費用が上振れてしまった領域への補填や、建設プロジェクトにおけるコスト削減に繋がるため、発注者からの評価に繋がるだけではなくゼネコン企業の利益を確保する技術でもあります。
原価低減と訳されるCD(Cost Down:コストダウン)は、材料や設計などを工夫することにより価格をさらに安くする提案となります。
建築施工管理技士は過剰なグレードの仕上げや材料について指摘を行い、発注者が求める適切なグレードの建物が構築されるように提案を行います。
VE同様に建設プロジェクト全体の費用を削減することが可能となりますが、完成される建物への影響を十分に考慮できる知識と経験が必要になります。
まとめ
本記事では建築施工管理技士の仕事内容を紹介してきました。
建築施工管理技士は、品質管理・原価管理・工期管理・安全管理・環境管理など5つの要素を管理しながら建物を構築し、コミュニケーション能力・決断力・生活習慣への対応力が求められます。
経験・スキルがあることに加え、上記の能力が高いほど、建築施工管理技士として円滑に仕事を進められると評価されやすく昇進も狙いやすいです。