建設業では、2019年に国が定めた働き方関連法によって労働環境改善の動きが進んでいます。
長時間労働が常態化してきた建設業界において、働きやすくなることはこれからの建設従事者にとって大きなメリットと言えます。
しかし、建設業が労働環境を改善していく中で生じている2024年問題は、喫緊の課題として多くの企業や労働者によって不安視されてきました。
建設業界に関わりのある方々は、今後もその影響が長引くであろう2024年問題について詳しく知っておくことをおすすめします。
以下で詳しく解説していきます。
建設業の2024年問題とは
建設業では2024年問題と呼ばれる課題が2019年頃から大きく取り沙汰されてきました。
2024年問題とは、簡単に説明すると労働基準法の改正によって生じる規制に適応するために、建設業全体でクリアすべき問題のことを指しています。
この法律の改正とは、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法(正式には、『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法』)のを示します。
働き方改革関連法では、労働基準法を改正し、労働者がより働きやすくすることを目的としており、改正の中身は多岐に渡り、一例として下記のものがあります。
- フレックスタイム制
- 勤務時間インターバル制度の促進
- 時間外労働の規制
建設業をはじめ、多くの業界で特に注目されたのは時間外労働の規制でした。
しかし、社会全体のブラック企業の是正や労働者のワークライフバランス改善の動きをきっかけに、36協定の中身も見直されることとなりました。
そして、働き方改革関連法の一貫として、これまで上限なく可能となっていた時間外労働も規制されることとなったのです。
時間外労働の規制は大企業などでは2019年4月から施行されましたが、中小企業などは2020年4月からの施行となりました。
しかし、建設業と一部業界では2024年4月まで猶予期間が設けられました。
建設業の規制猶予には、人材不足や職人の高齢化などを原因に長時間労働が常態化していたことが関係しており、急な規制は業界全体の業務に支障が生じると考えられたためです。
働き方改革関連法によって他の業界と同様、建設業でも働き方の変革が求められています。
建設業は特に長時間労働が常態化しておりこれまでのシステムでは企業が立ち行かなくなる可能性もあるため、2024年問題は重大な課題として捉えられているのです。
建設業における2024年問題の概要
次は建設業の2024年問題の概要を整理しながら解説していきます。
働き方改革が適用されるのは従業員であり、違反した場合には企業に罰則があります。
働き方改革が遅れた理由についても解説していますのでぜひご覧ください。
働き方改革の対象者は従業員
働き方改革関連法とは、企業が従業員の待遇を改善していくことを目的として施行された法律です。
そのため、働き方改革によるメリットを感じられるのは企業に勤める従業員です。
一方、企業は働き方改革に合わせて企業の体質を改善し、時間外労働を見直したり、有給をしっかりと取れるように後押しするなどの対策が必要となります。
違反した場合の罰則
時間外労働の上限規制を超えたり、割増賃金の割増率の規定を破ったりした場合、労働基準法第119条1項に基づき、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
この罰則は企業に科せられるため、企業の管理職や社長などが刑事罰に処されることとなります。
労働者は罰則が科せられることはないことからも、働き方改革が労働者の人権を守るためのものであることが分かります。
ただし、違反するとすぐさま罰則が適用されるわけではありません。
違反の疑惑がある場合、まずは労働基準監督署による調査が行われ、その調査によって違反があると判断された場合に労働基準監督署によって労働環境改善のための行政指導が行われます。
指導が行われた後も体制の改善が認められない場合に書類送検され、罰則が適用されます。
違反内容が悪質な場合には、行政指導の段階でも公表される可能性があります。
厚生労働省により公表された企業は、信頼失墜や求人への応募者の減少といった悪影響が考えられます。
建設業において働き方改革が遅れた背景
建設業で働き方改革が遅れたのには、長時間労働が常態化していたことが原因として挙げられます。
少子高齢化による人材不足や工期までのタイトなスケジュールなどを理由として、時間外労働に頼らざるを得ないという環境にあったようです。
さらに、建設業では季節変動が大きく工期が長いことも影響しています。
そうした業界の特殊性や人手不足といった課題から、働き方改革によって施行された時間外労働の規制に対応できないのではないかという懸念がありました。
しかし、課題を解決すべく、建設業の多くの企業が対策を練らなければらならず、業界全体で問題意識を持って2024年問題という名称が名付けられました。
建設業の2024年問題のポイント
建設業の2024年問題において、企業が向き合うべき課題の大まかなポイントをまとめました。
建設業では、2024年4月1日に猶予期間が終わり、働き方改革関連法の施行が開始されます。
時間外労働の上限規制を中心に、有給消化や割増賃金における課題もご紹介します。
時間外労働の上限規制
働き方改革関連法による規制後は、36協定を締結した後であっても、時間外労働は月45時間、年360時間以内が原則です。
何らかの例外的な事情があり、これを超える場合も、年720時間以内、休日労働を含んで月100時間以内、2〜6ヶ月の休日労働時間が平均80時間以内であることが上限として設定されました。
今までは特別な事情がありさえすれば、上限なく時間外労働が可能となっており、その事情の幅も広く、時間外労働の上限は無いに等しい状態でした。
それが働き方改革関連法の施行によって、明確な上限のラインが規定されたのです。
大企業から中小企業まで制限なく適用されるため、企業側は従業員の待遇により一層気をつける必要があります。
年5日の有休消化の義務化
2019年4月の働き方改革関連法の施行によって、年5日の有給休暇の義務化が行われました。
施行前までは有給休暇の取得について従業員が自ら申し出る必要があり、会社が有給休暇の取得に何色を示したり、従業員が遠慮したりする場合も多く、有給休暇の取得率が低迷していました。
しかし、義務化が行われたことにより、2019年4月からは会社が従業員に対して有給休暇を取得させなければならなくなりました。
この改正により国は有給休暇の取得率を向上させて、従業員のワークライフバランスを改善したいという思いがあるようです。
雇用形態による制限はなく、年に有給休暇が10日以上と付与される方は、パート・アルバイト・派遣を問わず、対象となります。
有給休暇の取得義務は有給休暇が付与された日から数えて1年以内となっております。
割増賃金引き上げの補足
2023年4月1日から、建設業を含む全ての中小企業で60時間を超える時間外労働時間の割増賃金の引き上げが行われています。
2010年に、大企業では割増賃金率が25%から50%に引き上げられましたが、中小企業はこの引き上げの対象となりませんでした。
それが、2023年4月1日からは中小企業でも、大企業と同様に割増賃金の割合が50%に引き上げられることとなりました。
建設業の2024問題が無理!と言われるのはなぜ?
建設業では、2024年問題の解決は無理だという声が業界内で上がっています。
こうした声が上がるのには、3つの要因が考えられます。
1つ目が働き方改革により時間外労働の上限に制限が設けられたとしても、業務量が減少することは無いことが挙げられます。
建設業では事前に決められた工期に間に合わせるため、多少無理をしても時間外労働をすることを良しとする傾向にあります。
建物の建設現場は、天候などを理由に作業ができない日もあります。
そうなると作業がずれこみ、時間外労働によって作業の遅れを取り戻そうとすることも少なくありません。
時間外労働も仕方がないという思想が業界全体で残っており、改善が難しいと考えられているのです。
2つ目に時間外労働によって上限が設けられることで、職人たちの給与が減少する点が挙げられます。
時間外労働をすれば残業手当や休日手当が支給されるため、給与が高くなります。
しかし、上限が設ければ、今まで上限以上に働けていた分の給与が減少し、職人たちが今までのように生活できなくなる可能性があるのです。
この対策として、企業側が人材の減少を食い止めるために労働時間は減少しつつ給与を増やすという対策がありますが、中小企業は大企業と違い、人件費の捻出が難しいことも多いです。
3つ目に、働き方改革に合わせて工期を適正な長さに調整することが難しい点が挙げられます。
建設業では時間外労働の規制や割増賃金の引き上げを理由に、今までと同様の工期設定では工事が難しくなってきています。
しかし、現場では他企業や個人事業主の職人など多くの方々も作業に携わっており、皆が同様の工期で進めていこうとすると、スケジューリングが困難になります。
発注者側も、工期が長くなればそれだけ建物の完成が遠のき、利益の機会損失に繋がるため、工期の長期化を渋る可能性があります。
2024年問題に上手く対応していくためには、企業と発注者が相互理解を深めて工期の設定をしていく必要があります。
現場には多くの方が関わっているため、様々な方の理解を得ながら体制を改善していかなければならないのも、2024年問題の解決を困難にしている原因の1つです。
上記のような理由により多くの企業が2024年問題への対応を迫られますが、上手く適応できなければ、人件費の上昇や工期の長期化を理由として倒産が相次ぐことも考えられます。
職人たちは今までのように稼げないとなると、廃業して別業界へと移っていき、人材不足が更に加速する可能性もあります。
こうした課題を解決することがなかなか難しいと考えられているために、2024年問題を解決するのは無理だという声が業界内でも多く挙がっているのです。
ただしこの課題の解決を国が黙って見ているわけではありません。
しかし、2024年からの施行が始まる時期になっても建設業の働き方改革が十分といえる状況ではなく、今後も何かしらの対策を講じていく必要がある状況と言えます。
建設業の2024年問題で個人事業主として独立するとどんな影響を受ける?
2024年問題による影響を受けるのは企業だけではありません。
建設業で会社に所属していた方が一人親方として新たに独立した場合にも、2024年問題は多大な影響を与えます。
ここでは2024年問題が個人事業主に与える影響について、詳しくご紹介します。
偽装一人親方は犯罪
建設業の2024年問題により、国は建設業全体で偽装一人親方が増加することに対し、危機感を抱いています。
偽装一人親方とは、企業が従業員を独立させて一人親方にしてから請負契約を結び、実際は会社が作業を指示して従業員と同様の扱いをしているにもかかわらず、あたかも一人親方であるかのように偽装することを指します。
偽装一人親方を行うことで、企業側には労働基準法による時間外労働の上限や有給休暇の取得を回避できるというメリットがあります。
そのため、今後偽装一人親方は増えていく可能性があるという声も多く挙がっています。
しかし、一人親方とは仕事の工程を全て自分で決めて作業を行う個人事業主のことを指す言葉です。
そのため、企業がこのような偽装一人親方を抱えて仕事をすることはれっきとした犯罪行為です。
企業から一人親方としての独立を促されたとしても、偽装一人親方として作業を請け負うことは犯罪に加担することとなります。
一人親方として独立する場合には、自分が偽装一人親方とならないよう、注意しながら独立準備を進めていく必要があります。
インボイス制度の影響を受ける
インボイス制度とは2023年10月から施行された消費税の仕入れ税額控除の方法のことで、課税事業者が利用できる制度です。
課税事業者は適格請求書(インボイス)を発行してもらうと、消費税額分の控除が受けられるというのがこの制度のメリットです。
一方、デメリットとして、免税事業者はこの適格請求書を発行する権利を持たないことが挙げられます。
適格請求書が発行できないと、企業を中心とした課税事業者は消費税の控除を受けられません。
そのため、適格請求書が発行できる課税事業者に優先的に仕事を依頼することとなります。
これにより、免税事業者が多い個人事業主は仕事の減少に繋がる可能性が大きくなります。
もし個人事業主が適格請求書を発行したい場合には、課税事業者になる必要があります。
しかし、課税事業者になると、消費税の納税義務が発生し、これまでは免除されてきた消費税を負担しなければならなくなるのです。
これによって消費税の分だけ収入が減少し、個人事業主の立場が悪くなると考えられています。
建設業では、2024年4月から、このインボイス制度の影響に加えて、働き方改革による企業の体制改善が始まります。
そうなると、一人親方も作業日数が減るため、収入減少に繋がります。
このように、インボイス制度と2024年問題は一人親方にも大きな影響を与えるため、今後廃業する方が増えるのではないかと業界内で懸念の声が挙がっています。
これから一人親方として独立を考えている方は、インボイス制度と働き方改革の両方に対して対策を講じていく必要があります。
まとめ
今回は、働き方改革に伴って建設業で大きな懸念となっている2024年問題について詳しく解説してきました。
建設業は長時間労働が常態化している業界であり、今後その体制を改善していく必要があります。
しかし、工期や業界の雰囲気などもあり、2024年問題の解決は難しいと考えられています。
今後も政府による対策や、企業と発注者による相互理解を進めていくことで、2024年問題としっかり向き合っていく必要があるでしょう。